私は、君たちを信じよう
「……古地図、かね」
領主様の目が、私とアルバを真っ直ぐに捉える。しばらく黙ってそのまま私達を見ていた領主様は、ゆっくりと目を閉じて「……よかろう」と呟いた。
そのまま連れていかれたのは、今となっては懐かしい、領主様の館の奥に位置する書庫。
入り口にほど近い机の近くで領主様ととりとめもない話をしながら待っていた私達に、執事のおじいさんが持ってきてくれたのは、とても大きな古地図だった。
書庫の奥の扉から取り出してきてくれたみたいで、とても厳重に保管されていたんだろう事がうかがえる。
机いっぱいに広げられた古地図を前に、領主様は「この入り江が、今のルディだ」と丁寧に説明してくれた。
でも、いやはや、空から見下ろしたことなんかないから、ぶっちゃけ説明してもらっても全然わかんないな。あ、でもこの岬はちょっと面影あるかなあ。
そんな事を考えていたら、音もたてずにハクエンちゃんが古地図の上に飛び乗って来た。
「にゃ」
靴下をはいたみたいに真っ白な前脚で、岬の先端をチョイチョイと指している。
「こらこら、我が家の家宝で遊ばないでおくれ」
「にゃう~」
ハクエンちゃんを優しく抱き上げた領主様にめげることなく、なおもハクエンちゃんはシッポの先で同じ場所を叩いていて、一生懸命に私達になにかを伝えてくれているようだった。
「ここ?」と聞くと「にゃうっ」と答える。どうやら岬の先端が、龍王の祠らしい。
「……そこは私が治める土地だ。普通に訪ねても入れぬよ」
「えっ」
領主様が、またもまじまじと私達の顔を凝視する。
「君たちは、もしや……」
そう言ったきり、言葉を失ったように黙ってしまう領主様。私は、急にドキドキしてきた。
怪しい旅人度が一気に増してきたのかな。ああでも娘さんの病気も直したし、古地図も見たからとりあえず目的は達してる。いざとなれば逃げればいいだけだけど。
それともまさか、私が聖女だってバレたわけじゃないよね?
戦々恐々としつつ領主様を見たけれど、領主様はふっと笑って首を振った。
「いや、やめておこう。君たちは娘の恩人だ、その場所に用があるのならば門を開けておくよ。特になにもない場所だが、興味があるのならば見て行きなさい」
「あ……ありがとうございます!」
「礼を言うのはこちらの方だよ、娘を救ってくれてありがとう」
右手を出して握手を求めてくれる領主様に、私は嬉しくなって両手でしっかりその手を握った。領主様、本当に本当になんて素敵な人なんだろう。
「私は……君たちを信じよう」
去り際にそうつぶやいた領主様の言葉は、なぜか重い決意を含んでいた。




