浄化の奇跡
「ぜんぜんよ、ちっとく苦しくなんかないわ。でも、おかしいの」
息が止まるかと思った。
「どどどどど、どこがおかしいんだ、言ってごらん」
領主様もあからさまにてんぱった声だけど、私だって息が止まるかと思った。嘘、まさか悪化したとか言わないよね!?
「あのね、体がどこも痛くないの!」
ぱっと顔をあげたウェアラートちゃんの瞳は、キラキラと輝いていた。
「いままでね、いっつも、たくさん痛かったの。今日だって、お手々も、足も、胸も痛かったけど、頭がすっごく痛かったのに、あのお姉ちゃんがお祈りしてくれたら、体から痛いのがいなくなっちゃった!」
「ウェアラート……!」
基礎体力が異常に低くてちょっとしたことでもすぐに熱を出してしまうと聞いていた。
痛みを訴えて酷く苦しんで暴れる夜もある、ベッドから起きられる日の方が少ないんだと、領主様も奥様も、とても辛そうだった。
その彼女が、はじけるような笑顔を見せている。
「ねえ、ベッドから出てみてもいい!?」
「ああ、もちろん……」
「大丈夫?」
呆気にとられたような領主様と、まだ心配そうな奥様に、元気よく「だいじょうぶ!」と答えたウェアラートちゃんは、ベッドから出ると体を思いっきり動かして跳ねたりして見せて「見て! 動いても痛くないの!」とアピールした。
領主様と奥様は、それを涙ぐんで見つめている。
良かった、本当に良かった……。
「おい」
いきなり足元から声をかけられて、そっちを見たらハクエンちゃんが飛びついて来た。
「わっ」
思わず受け止めて抱っこすれば、ハクエンちゃんはひそひそ声でこう言った。
「あの娘、魔力の溜め過ぎだ。お前が散らしたから、これでしばらくは問題ないだろう。この世界の魔はお前が浄化したから、これからは溜まりも少なくなるはずだ」
「まさか、それが病気の原因? 体が痛いのも?」
「そうだ。体の中に魔力がため込まれるだろう、それを外に出せずにいればやがて膨れ上がって体の中に納まりきれず、体を圧迫するということだ」
「なるほど、でもハクエンちゃんったらそんな事もわかるんだ……すごいね」
「似た力を持っていた奴がいたからな。まあ、あいつは自分の意思で世界からグイグイ力を汲み取って、むしろ魔の力を生み出してたから、能力のレベルが違うがな」
ふん、と鼻を鳴らしたっきりハクエンちゃんは黙ってしまった。
まあ、今は急に元気になったウェアラートちゃんに皆様目を奪われてるからいいけれど、ハクエンちゃんがしゃべってるのに気づかれるとマズイし、おしゃべりはこれくらいにしておこう。




