天使な娘ちゃんを全力で癒したい
いやあ、それにしてもハクエンちゃんを愛しそうに撫でている領主様の娘さん、ウェアラートちゃんっていう名前らしいんだけど、ほんっとうに天使のような可愛らしさ!
領主様譲りの落ち着いた赤毛が窓辺からの光を受けてキラキラと煌めいて、それもまた綺麗だ。ただ、その顔色はこの港町には珍しいくらいに白い。っていうか青い。
それに……不思議な事に彼女には、浄化ポイントで感じたような、不穏な空気がまとわりついていた。薄い黒の霧みたいに見えるけれど……いったい、なんなんだろう、これ。
「ここのところ特に体調が思わしくなくてね、薬もなかなか手に入らず、辛い思いをさせてしまった」
領主様が、辛そうな顔でウェアラートちゃんの髪を優しく撫でると、彼女は「お父様大丈夫よ、今日は少し痛みが少ないの」とけなげに笑う。
可愛い。できれば少しでも楽にしてあげたい。
「お嬢様、こちらを」
執事のおじいさんが、湯気の上がるティーカップを手に部屋に入ってくる。どうやらさっきの三千華をお湯で薄めた『三千華ティー』を持ってきてくれたらしい。
しかも一緒に奥様までおいでになって、私達に丁寧に挨拶してくださった。領主様もとても素晴らしい方だけれど、奥様も優しくて優雅で、私、密かに憧れていたんだよね。
ウェアラートちゃんのベッドの傍に座り「良かったわね、ウェアラート。旅の方達がとても美しくて、おいしいお茶を持ってきてくださったのですって」と慈愛に満ちた目で頬を撫でてあげている様は、まるで聖母のようだ。
病気の彼女にとって、家族のこの愛情は、なにより心強い物だろう。
強い家族愛を目の当たりにして、私の心は、僅かにピリリと痛んだ。自分の家族の顔が思い出されてちょっとだけ辛い。
勝手に胸を痛めている私の前で、ウェアラートちゃんは「甘い匂い」とふんわりと微笑みながら、三千華ティーに口をつける。そして、目を真ん丸にして「おいしい、甘い!」と喜んでくれた。
え、ちょっと待って、なんか早くもウェアラートちゃんの頬に赤みがさしてきたんじゃない? さっきまであんなに真っ白だったのに!
三千華、すごい……!
「体、ぽかぽかする……あったかい」
にっこり笑う笑顔の可愛いこと!
ハクエンちゃんと三千華のおかげですっかりウェアラートちゃんの信頼も得た私達は、すんなりと彼女の治療にあたらせてもらえることになった。
私は重々しい動きで、ウェアラートちゃんの額と両腕にレイトラッシュのゼリー部分を押し当てて、一心に回復魔法を唱えていく。




