領主様との会談
蜜に少しだけ唇をつけて味を確かめた後、僅かの間をおいて領主様はスプーンを口に入れる。
私達に「甘いな」と微笑んで、そのまま花を味わうように口に含んでいた領主様の喉が、やがて大きく動いて、飲み下したことが見て取れた。
「どれくらいで効果がでるものなのかね」
「わりに即効性ですよ、腹の中が熱くなってきませんか?」
アルバにそう言われて、領主様は真面目な顔で唇を引き結んだ。目が一点を見つめているところを見るに、たぶん体の中の感覚を真剣に追っているんだろう。
「……なるほど、これは不思議だ。確かに胃の中が熱くなってきた……それに、これも効果なのか? 指先が汗ばんできたようだが」
「ああ、確かに手足熱くなりますね。なんですかね、血行が良くなってるんですかね」
「ずっと頭が重かったんだが、それも楽になったようだ。なんとなく、目も開けやすい」
「店主の話では他にも筋肉痛や肩こりなんかにも効くらしいですがね、俺の中では疲れ切って死にそうなときに使うもんでした」
「使い方は人によって幅広いんです。子供にはお湯で薄めて飲ませると、甘くて喜んで飲んでくれるそうですよ」
やっと口をはさめた私に、領主様は「ああ、娘が喜びそうだ」とにっこり笑ってくれた。
嬉しい。
きっとこの三千華だけでも、娘さんの体力の底上げになる筈だから。
でも、できれば娘さんに浄化と回復の魔法を試してみたい。もしかしたら、病の根幹を癒せるかも知れないんだもの。そう、ここからが本当の勝負だ。
私は、思い切って口を開いた。
「この三千華ともうひとつ、砂漠で珍重されるお薬を持参しております。もしよろしければ、お嬢様にぜひお試しいただければと思うのですが」
領主様にお見せしたのは、レイトラッシュという、砂漠だけに生える植物。
ぱっと見はアロエみたいで、外皮をちょっと剥くとゼリーみたいなのが出てくるのもアロエに似ている。
本当の効能は美肌とからしいんだけど、領主様にはこれを塗って砂漠に伝わる特殊な魔法を唱える事で、娘さんのような病名がはっきりとしない症状に効果があるとふれこんである。
なんのことはない、娘さんに会わせてもらうためだけの方便だ。
もちろん領主様のお肌にも塗ってみて、毒性がないことはご理解いただいたうえで、私達はついに娘さんの部屋に通してもらうことが出来た。
「わあ……可愛い猫ちゃん」
そして今、ハクエンちゃんは娘さんの細い腕の中で、モフモフモフモフと可愛がられている。
憮然とした表情ではあるけれど、幼い女の子の少々乱暴な触り方でもされるがままに撫でられてくれていて、ハクエンちゃんは本当に意外にも紳士だ。




