表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】帰れない聖女は、絶対にあきらめない!  作者: 真弓りの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/116

三千華の蜜漬け

そんなこんなで領主様に取り次いでもらえた私達は、ありがたいことに今、応接室で領主様と対面させてもらっている。


久しぶりに見た領主様は少し痩せたようで、お顔には色濃い疲れの色が見えていた。それが娘さんの病気を心配してのことなのか、領地経営や財政に関わることからなのか、私にはわからない。


私や第二王子一行に関わった心労ゆえの疲労でないことを祈るばかりだ。



「大丈夫ですか? 随分とお顔の色が」


「気にしないでくれ、それよりも件の品を見せてくれないか?」



無理に笑顔を見せて、領主様がそううながしてくる。


やっぱり一介の旅人にも丁寧な方だ。それだけでもう好感が持てるよね。


お忙しい時間を縫って娘さんのために顔を出してくださったんだから、さくっと本題に入ろう。私達だってそう時間があるわけでもないし。


私は、アルバと目を合わせ、ゆっくりと頷いて見せた。



「これが三千華の蜜漬けです」



アルバが、領主様の前に小さなガラスのポットをコトリと置く。金色の蜜の中にたくさんの紅い花が咲いていて、見た目もとても神秘的だ。普通、砂漠の民はこれを小さな小瓶に持って旅に出るんだって。


まだ日本にいた時、雪山にチョコレート持っていくって聞いたことあるけど、たぶん似たような感じで、僅かでも高カロリーで栄養摂れるとか、そういうものなんだろうね。



「美しいな」


「ま、綺麗な見た目ですがね。俺がこれを勧めるのは、本当に効果も高いからですよ」



アルバの真剣な目に、領主様も僅かに身を乗り出して聞いている。



「砂漠を渡って外の街に行こうと思った時、俺は持てるだけの食糧と水以外は、ありったけこれを買いました。」


「ほう」


「何度も死にかけて、その度にこれに命を救われましたよ。食えなくて、乾いて、動けないくらいに疲弊した時にも、これを口に含めばまた何キロと足が動かせた。砂漠の民の知恵も馬鹿に出来ねえって心底思ったんで、本当にこれだけは自信もって勧められるんです」


「それは凄いな」


「金はいらねえんで、ひとつ、試されませんか? 領主様もそうとう疲弊してる。ちょうどいいんじゃないですかね」



アルバが思いのほかしっかりと領主様を説得してくれるものだから、私は内心驚いてアルバの話に聞き入ってしまっていた。


領主様が、ごくりと喉を鳴らしてガラスのポットを見つめる。


執事のおじいさんがさりげなく手元に置いたスプーンを手に、ポットから紅い花をひとつ掬った領主様は、ゆっくりと蜜漬けを口に運んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【8月1日発売 書籍化作品】

よろしければこちらからどうぞ(^-^)

『自称魔王にさらわれました ~聖属性の私がいないと勇者が病んじゃうって、それホントですか?』

たくさん加筆しましたし、山下ナナオ様によるイラスト・挿絵はもう垂涎モノでございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ