やっぱり……領主様の館に行こう
「娘さん、あまり良くは無さそうだな」
「そうだね、もう薬草も手に入りにくいみたい」
もともと冒険者にとっては実入りが少ない割には採集に時間がかかる、いわゆる『おいしくない』依頼だった。私がいない今、そんな依頼を好き好んでやるような冒険者もいないんだろう。
領主様の人柄を知ったからこそ、やっぱりこの状況を見過ごすのは申し訳無さすぎる。ものすごく短時間で立ち去れば、なんとかなるんじゃないだろうか。
聖女としてではなく、認識阻害の魔法で姿を偽って館を尋ねれば、領主様にも面倒な思いをさせずに娘さんの治癒ができるかも知れない。
「やっぱり……領主様の館に行こう。なんとか娘さんだけでも元気になって欲しい」
「言うと思った。で、どうやって中に入るつもりだ?」
「問題はそこよね」
正直お屋敷の中でも私が案内された書庫や、監禁されていた部屋、晩餐室みたいに、行ったことのある場所なら転移で入れると思うんだ。
でも、娘さんの部屋は分からないから、それを探してうろうろしている時に見つかったら目も当てられない。
忍び込むのはやっぱりリスクが高すぎる。
かと言って、正面突破もなかなか難しいよね。だって、私がキー・セイバルとして領主様のお館を訪ねることが出来るようになるまでだって、三ヶ月に渡る薬草の納入という実績あってのことだ。
いきなり訪ねて、得体の知れない旅人を「どうぞ、どうぞ」なんて館に招き入れてくれる筈もない。せめて取次の方や領主様が興味を持ってくれて、少々怪しくても試してみようと思えるような、何かがないと……。
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「これは珍しい」
「ええ、砂漠でしか採れない三千華という花を蜜につけた、貴重な品でございます」
いま私達は、砂漠からの行商人を装って、絶賛門番さんを説得中だ。
あのあと転移で一気にユレイに飛んで、バザールで異国感のあるものを見繕った私達は、港町に戻ってくると同時にターバンを身に纏い、何食わぬ顔で行商人としてこの館を訪れた。
遠く離れた砂漠からの行商人が、娘さんの病に効きそうな薬を持ってきたって言えば、興味を示すんじゃないか、というとってもありきたりな作戦だ。
頼むからうまくいって欲しい。
「年に数度だけ、砂漠に雨が降る時にだけ咲く、とても貴重な花なのですよ」
「それだけに、栄養価が豊富で滋養に良い。砂漠の民が広大な砂漠を渡る際に、命を繋ぐ糧として珍重するものだからな、効果は折り紙付きだ」
アルバがさりげなくフォローしてくれる。言っていることが真実なだけに、何気なく言った言葉でも説得力があるのがありがたい。
いよいよ興味をひかれた様子の門番さんに、私は思い切って直球で勝負に出ることにした。
「実は町で、こちらのお嬢様が病弱だとお聞きしたもので、この三千華がお役に立てないかと思いまして」
お願い、領主様に取り次いで!




