命に代えても
「ばかな……!」
「信じる必要などないよ、僕が信じて欲しいのはあのお方だけだもの」
にっこりと、不死王が笑う。
不死王の左手首を掴んだままの第二王子の手に、不死王が右手を伸ばした途端、第二王子は弾かれたように手を離す。その顔は青ざめていて、口とは裏腹に不死王を恐れている様子なのが感じられる。
「そうだ、ねえ賢者。どうせさぁ、君のことだからなんか都合のいい仕事だけさせて、また僕らを封じるつもりなんでしょ」
「まあ、そうだね」
あっさりと、賢者サマは頷いた。残酷にも聞こえるその返事に、不死王はちょっとだけ眉を下げて微笑した。
「まあいいさ。それであのお方に会えるんだったら、別に便利に使われる事だってなんてことない」
「話が早くて助かるね」
「その代わりと言っちゃなんだけど、次に封じる時はあのお方と一緒に封じてよ。もう僕らにたいした力はないんだもの、別に問題はないんじゃない?」
「考えとくよ」
「ありがとう。僕はねえ、あのお方さえいれば、ただそれだけでいいんだ」
「知ってるよ。じゃ、始めよっか」
賢者サマと不死王は、そんなことを話しながらゆっくりと部屋の奥に足を進めていく。
「グレオス! リーン! 奴らを止めろ!」
第二王子の号令で、グレオスさんが一瞬で二人との間をつめ、斬りかかる。
その剣を受けたのは、アルバだった。
「悪いな、グレオス」
「なぜ邪魔をする! 今の話が本当なら、奴らは魔王を復活させようとしているんだぞ!」
「キッカが元の世界に帰るのには必要な事だ」
第二王子が、リーンが、グレオスさんが。一斉に私を見る。信じられないものでも、見るみたいな目で。
「本当よ、私は魔王を復活させる」
だからこそ私は、はっきりと宣言した。
「キッカさん、ダメだよ! 魔王が復活したらこの世の総てが魔に侵される。昔、文献で見たんだ」
「知ってるわ。でも、この千年に渡る浄化で魔王はもう無力化されてる筈なの」
「相手は魔王だぞ! そんな保証がどこにある!」
第二王子が声を荒げる。その言葉に、私は反論できなかった。だって保証は……きっと誰にもできない。
「保証なんかねえよ。だが、千年の間あんた達が、異世界から聖女を攫ってまで浄化し続けてきた土地じゃねえか。その効果で獣王だって今やそんなにチビになってんだ。魔王とやらも力を削がれてると考えるのが妥当だろ?」
「獣王……これが?」
「ああ、そうだ!」
第二王子に答えるとともに、アルバがグレオスさんの剣をはじき返した。
「魔王を復活させることでキッカの願いが叶うなら、俺は絶対に躊躇しない!」
アルバ……!
「もしも魔王が世界を害するようなら、その時は俺が命に代えても責任もって倒す。……それだけの覚悟あってのことだ」
アルバが、そこまでの決意を持って、同行してくれていたなんて。




