逃げるが勝ちなんじゃない?
「とてもいい……とてもいいな、君。美しい容姿。白磁のような肌。金糸のような髪。まるでお人形のように美しいというのに、心は猜疑心でいっぱいだ」
「ひっ……」
クルクル金髪巻き毛の細腕をなぞっていた不死王の手は、いつの間にか移動して頬を愛でるように撫でている。
美少年にしか見えない不死王を、なぜかクルクル金髪巻き毛は恐怖に満ちた目で凝視していた。不躾に触りまくる手を払うでもなく、硬直したみたいに動かない。
不死王だと認識しているわけでもないだろうに、やっぱり、本能的に怖さとかを感じるんだろうか。
「ああ、声も好みだ。これだけ素晴らしい器ならば、あの方は、きっととても喜んでくださる……」
圧に押されるように一歩後ろに下がった金髪クルクル巻き毛に、不死王は容赦なく詰め寄っていく。
階段に足を取られて、クルクル金髪睫毛はそのまま尻餅をつくように階段に倒れ込んだ。
おお! 不死王グッジョブ!
おかげ様でクルクル金髪巻き毛から自由になったよ! 賢者サマを呼ぶなら今じゃない!? 不死王、もうちょっとクルクル金髪巻き毛の相手をしててちょうだい!
「おや、僕の眷属に随分と可愛がって貰ったようだねぇ。随分と陰の気が濃くなっている。彼らが見せる幻影は、とてもよくできているだろう?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる不死王を横目で見ながら、私はペンダントを口に当てる。
賢者サマ、お願いします!!!
「ああ、ゴースト達はとてもいい仕事をしたようだねぇ。美しい器に、暗闇のような中身。素晴らしい作品に仕上がっている。中身が虚ろな人形も趣があるけれど、君の闇はそれ以上だよ……」
クルクル金髪巻き毛に鼻先を突き合わせるくらいに顔を寄せて、不死王はうっとりと呟いた。
「ねぇ、君をちょうだい? きっとあの方が笑ってくれると思うんだ」
「ひぃっ」
「ロンド! 何を遊んでいる! さっさとキッカを連れてこっちに来い!」
しびれを切らしたように第二王子が叫ぶ。その時だった。
「おー、殺伐としてるねえ」
呑気な声まるだしで、賢者サマが現れた。
「賢者サマ!」
「お待たせー。で、これどういう状態?」
「不死王のいる階まで来たのに、こいつらが邪魔するのよ」
「あー、なるほど」
「ねぇ、アルバがゴーストにやられて具合悪そうなの。早く封印を解いて、さっさと退散したい」
そう、よく考えたら封印さえ解ければ、不死王にもクルクル金髪巻き毛達にも用なんかないのよ。
さっさと封印を解いて、逃げるが勝ちなんじゃない?




