表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】帰れない聖女は、絶対にあきらめない!  作者: 真弓りの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/116

ああ……なんて理想的な器だ

「ほらぁハクエン、もっとちゃんと見てよ」


「はじまった」


「この銀の髪は人毛なんだってさ、生前はさぞ丹念に手入れをしていたんだろうねえ。それにこの艶やかな白磁の肌、指先まで繊細で美しいだろう? 頰にほんのり紅がさしてあるのも生命感があっていいと思わない?」


「あー、すごいすごい」


「この瞳はね、ガラス玉なんだけどまるで宝石のように透明度が高いだろう? 人の技術の進歩は素晴らしいよねぇ。このドレスシャツもシルクの滑らかな光沢が美しいし、リボンタイとズボンに黒のベルベットを選択したのも好感がもてる。このバックルに使われているのは本物の宝石だそうだよ。人形自体の美しさもさることながら、着ているものの素材まで一級品、作り手の執念が透けて見えるようだと思わない?」



少年の言葉にさっきからの違和感がやっと腑に落ちる。


この子、生身の体じゃないんだ。


ビスクドールっていうのかな、生きているみたいに美しい、お耽美なお人形がいるじゃない。たぶん、ああいうお人形をどうやってか動かしているんだわ。


まさか、ゴーストの親玉だったりするのかな。ならば、あの気味悪さも納得だ。


完全に自分の世界に入って滔々と自らを讃えまくっている少年を呆然と見ていたら、ハクエンちゃんがあたしの手をカリ、とひっかいた。



「おい、グレンが正気付くと厄介だ。今のうちにあの忌々しい賢者を呼んでおけ」


「あ、そっか」


「我があやつの気を逸らしておいてやろう」



確かに第二王子達も呆気に取られている今なら、邪魔が入らない。


私はハクエンちゃんを階段にそっと降ろす。皆の視線が不死王に集まっているのをいいことに、アルバのいる方へさりげなく距離をつめながら、賢者サマから貰った通信用のペンダントを取り出した。



「ねえ、ハクエン。綺麗でしょう? あのお方はきっと喜んでくれると思うんだ」


「お前は千年経ってもかわらぬな。いつも忙しそうで楽しそうだ」


「当たり前じゃないか、人も随分進歩したからね、近頃じゃ人形の方がよほど美しい。あのお方がいつ目覚めてもいいように、もっともっとたくさん綺麗なものを集めておかなくちゃ」



賢者サマを呼ぼうとペンダントを口に当てたとき、私の手を華奢な白い手がぐっと掴み上げた。



「いったい何のつもり?」



それはこっちのセリフだ、クルクル金髪巻き毛。邪魔しないでよ。



「手を離して、今あんたに構ってる場合じゃないのよ」


「不愉快な茶番はこれくらいにしてよ。煙に巻こうったって、もう逃がすつもりはないからね」



いつになく真剣な顔のクルクル金髪巻き毛に、不覚にも圧倒されてしまった。掴まれた腕が痛い。


でも、私の腕をきつく掴むクルクル金髪巻き毛の腕を、横から撫でる手があった。



「ああ……なんて理想的な器だ」



ぞっとするような声が、美しいビスクドールの口から洩れる。


いつの間に近づいて来たのか、不死王の瞳は、うっとりと見惚れるようにクルクル金髪巻き毛を見上げていた。


その透き通った瞳が、なぜかすごく空恐ろしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【8月1日発売 書籍化作品】

よろしければこちらからどうぞ(^-^)

『自称魔王にさらわれました ~聖属性の私がいないと勇者が病んじゃうって、それホントですか?』

たくさん加筆しましたし、山下ナナオ様によるイラスト・挿絵はもう垂涎モノでございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ