ああ……なんて理想的な器だ
「ほらぁハクエン、もっとちゃんと見てよ」
「はじまった」
「この銀の髪は人毛なんだってさ、生前はさぞ丹念に手入れをしていたんだろうねえ。それにこの艶やかな白磁の肌、指先まで繊細で美しいだろう? 頰にほんのり紅がさしてあるのも生命感があっていいと思わない?」
「あー、すごいすごい」
「この瞳はね、ガラス玉なんだけどまるで宝石のように透明度が高いだろう? 人の技術の進歩は素晴らしいよねぇ。このドレスシャツもシルクの滑らかな光沢が美しいし、リボンタイとズボンに黒のベルベットを選択したのも好感がもてる。このバックルに使われているのは本物の宝石だそうだよ。人形自体の美しさもさることながら、着ているものの素材まで一級品、作り手の執念が透けて見えるようだと思わない?」
少年の言葉にさっきからの違和感がやっと腑に落ちる。
この子、生身の体じゃないんだ。
ビスクドールっていうのかな、生きているみたいに美しい、お耽美なお人形がいるじゃない。たぶん、ああいうお人形をどうやってか動かしているんだわ。
まさか、ゴーストの親玉だったりするのかな。ならば、あの気味悪さも納得だ。
完全に自分の世界に入って滔々と自らを讃えまくっている少年を呆然と見ていたら、ハクエンちゃんがあたしの手をカリ、とひっかいた。
「おい、グレンが正気付くと厄介だ。今のうちにあの忌々しい賢者を呼んでおけ」
「あ、そっか」
「我があやつの気を逸らしておいてやろう」
確かに第二王子達も呆気に取られている今なら、邪魔が入らない。
私はハクエンちゃんを階段にそっと降ろす。皆の視線が不死王に集まっているのをいいことに、アルバのいる方へさりげなく距離をつめながら、賢者サマから貰った通信用のペンダントを取り出した。
「ねえ、ハクエン。綺麗でしょう? あのお方はきっと喜んでくれると思うんだ」
「お前は千年経ってもかわらぬな。いつも忙しそうで楽しそうだ」
「当たり前じゃないか、人も随分進歩したからね、近頃じゃ人形の方がよほど美しい。あのお方がいつ目覚めてもいいように、もっともっとたくさん綺麗なものを集めておかなくちゃ」
賢者サマを呼ぼうとペンダントを口に当てたとき、私の手を華奢な白い手がぐっと掴み上げた。
「いったい何のつもり?」
それはこっちのセリフだ、クルクル金髪巻き毛。邪魔しないでよ。
「手を離して、今あんたに構ってる場合じゃないのよ」
「不愉快な茶番はこれくらいにしてよ。煙に巻こうったって、もう逃がすつもりはないからね」
いつになく真剣な顔のクルクル金髪巻き毛に、不覚にも圧倒されてしまった。掴まれた腕が痛い。
でも、私の腕をきつく掴むクルクル金髪巻き毛の腕を、横から撫でる手があった。
「ああ……なんて理想的な器だ」
ぞっとするような声が、美しいビスクドールの口から洩れる。
いつの間に近づいて来たのか、不死王の瞳は、うっとりと見惚れるようにクルクル金髪巻き毛を見上げていた。
その透き通った瞳が、なぜかすごく空恐ろしい。




