不死王グレン
視線が集まった先に現れたのは、息を呑むほど美しい少年だった。
透き通るようなアメジストの瞳でこちらを見下ろして来るけれど、その美しい顔には何の表情も浮かんではいない。それが、なぜか強烈な違和感となって私の心を不安にさせる。
「やっと出て来たか。遅せーぞ、グレン」
ハクエンちゃんの言葉に、思わず少年を二度見した。
この美少年がグレン? ……不死王、グレンだっていうの!?
あ、でもハクエンちゃんだって仔豹になってるんだから、力を奪われて子供になってるのも当たり前なのか。……いやいやでも、『不死王』ってからにはなんかもっとこう……アンデッドっぽい何かだと思うじゃない。
もしかしてヴァンパイアとか、そういうオチ? うん、そうかも。だってびっくりするくらい美少年だもんね。人外、って言われた方がしっくりくるかも。
不死王が予想外過ぎて、思考が激しく脳内を駆け巡る。
でも、驚いたのは私だけではなかったらしい。不死王グレンだという少年も、無表情なまま足元の仔豹をまじまじと見つめていた。
「その物言い。もしかしてハクエン?」
「まぁな」
不貞腐れたようにハクエンちゃんがそっぽを向く。
途端、少年はけたたましく笑い出した。なのに、なんだろう。顔の表情がなんとも不自然で、それがまた気持ち悪い。
顔自体は綺麗なはずなのになぁ。違和感の方が勝っちゃうと魅力的な笑顔からは程遠くなるものなんだって、初めて知ったかも。
誰もが圧倒されたみたいにピクリとも動かずに凝視する中、少年はハクエンちゃんを指さして甲高い声を上げる。
「あの雄々しく美しかった君が、こんなにキュートな姿になっちゃったの!? まさかそれが封印の影響!?」
「うるせぇ」
「あははははっ! 人間も粋なことをするねえ。その愛らしい姿なら、きっとあのお方がお喜びになる!」
ひとしきり狂ったように笑ったあと、少年はいきなり真顔でハクエンちゃんを凝視した。
「……ああ、でもそうなったらハクエン、僕は君を排除しなくてはね。あの人に姿を愛でられるのは、僕だけであるべきだもの」
瞳に剣呑な光が宿った気がして、私は思わずハクエンちゃんを抱き上げた。
なんなのコイツ。
なんなのよコイツ。
思ってたよりずっとずっとヤバイ奴じゃないの!
「誰、きみ」
「…………!」
アメジストの瞳がギョロリとこちらを睨む。その視線が異様で、私は言葉を返せなかった。
どうしてか、小刻みに手が震える。
それを感じ取ったのか、ハクエンちゃんが私をチラリと見上げて、しっぽで腕をやんわりと撫でてくれた。
「そう脅すでない。それよりもグレン、今回の器は随分と凝っておるではないか」
「わかる!?」
少年はパッと顔を輝かせ、「見て! 見て! 僕、すごく綺麗でしょう!?」と、くるくると踊り出す。
喜怒哀楽が激しすぎてついていけない。
呆然と少年を眺めるしかない私の腕の中で、ハクエンちゃんが疲れたようにため息をついた。




