落ち着きました。
それ以上は情報をくれなかったハクエンちゃんの道案内で、私達は少しずつ城の内部を進んでいく。
荒れ果てた城はもちろんまったく人気はなく、静謐な空気が漂っていた。
城に入った瞬間の感想は「あ、意外に明るい」で、両サイドに広がる廊下は窓から柔らかな光が差し込んでいて、内部まで侵入してきている蔦も恐怖を煽ると言うほどでもない。
せっかくほっとしたのに、ハクエンちゃんが「こっちだ」と指し示したのは、複雑な意匠が凝らされた重厚な扉だった。
そして、またも導かれるようにその重厚な扉がゆっくりと開く。
現れたのは、コンサートホールみたいに大きな空間。きっと大広間だろうこの場所は、豪奢なシャンデリア、壁や天井にまで装飾が施されている。暗がりの中、この扉からの僅かな光で映し出されたものを見ただけでも、この城がこだわりを持って作られているのがわかる。
光が届かない奥の方は当然暗いから見えなくて、正直ここに入っていくのはちょっと怖い。
「これって扉が閉まったら真っ暗だよね。これまでみたいに灯りがつくのかな」
「何とも言えないな。カンテラをつけておいた方がいいかもしれない」
テキパキとカンテラに火をともし、アルバは先へと進む準備を整えていく。さすが凄腕冒険者、動きに無駄がない。でもさあ、無理して暗いところを進むことなくない?
「ねえ、あの明るい廊下の方からはいけないの?」
「単に遠回りなだけだ。どうせ同程度に暗い場所は通ることになるぞ」
絶望しかない。
「聞いただろ? 怖い思いをする時間が増えるだけだ、最短で進もう。その方が魔物との遭遇率も低いはずだ」
「分かってるけど」
正論だよ。そりゃそうだよ。それでも嫌だからゴネているというのに。でもアルバの主張が正しいのは百も承知だから反論もできないわけで。
私は悲しい気持ちをおさえつつ、目の前の茶色に手を伸ばす。
「……なにをする」
「だって怖くて」
ハクエンちゃんのモフモフを求めて抱き上げたら、半目で睨まれた上、大きなため息をつかれた。
よし、これは嫌だけど仕方ないから諦めた時の表情だ。どうやら抱っこで一緒に行ってくれるらしい。
ありがとう、ハクエンちゃん。ハクエンちゃんのあったかい体を抱っこしてなら、暗闇もちょっとは怖さが薄れるかもしれないね。
そう思ったのに。
「だめだ、おろしてやれ」
なのに、なんとその野望はアルバによって阻まれてしまった。
「なんでよー」
「さっきから恐怖にかられた時のお前の馬鹿力、シャレにならねえ。いくら獣王と言えど、こいつは今は子供だ。さすがに可哀想だ」
「ちょ……」
真面目な顔で、言ってる事まあまあ酷くない!? 私、そこまで馬鹿力じゃないし!
「き……貴様! 見くびるな、我は、我は、貴様に心配される程落ちぶれてはおらぬ……!」
アルバに思わず反論しようとしたけれど、お耳もおヒゲもふさふさ尻尾もビンビンに立ててフーッと唸っているハクエンちゃんを見たら、なんか気持ちがおさまってきた。
そうだね、なんか可哀想だね。私、自力で頑張るわ。




