趣味悪すぎじゃないの!?
「落ち着いたなら行くぞ」
ハクエンちゃんの容赦ない言葉に、ぷりぷり怒っていた心が一瞬でシュンとしおれる。
うう~、行きたくないなあ。
こんな怖いところだとは思わなかったよ。樹海はまだ薄暗くって霧が濃いだけでそこまで怖くはなかったんだけど、あのお城、めちゃめちゃ圧迫感あるしさあ。
「ハクエン」
なかなか足が動かなくて二の足を踏んでいたら、珍しくアルバがハクエンちゃんに話しかけた。
「この城は魔物は出るのか」
「無論わんさか出る。我のダンジョンと同程度にはな」
「そうか……」
呟くと、なぜかアルバはターバンをベルトに通して、外れないように固定する。
「ほらキッカ」
ここを持てとばかりにターバンの端を私に見せてくれるってことは。
なるほど、賢い。さっきみたいに私がビビる度に、いきなりマントを引っ張られたら敵わないってことだろう。
「悪いな、魔物が頻繁に出るなら安全のために両手は空けておかざるをえない」
「ありがとう。とりあえず何もないよりは安心する」
不思議なもので、ホントにターバンの端っこを持つだけで、ちょっと心が落ち着いた。この手触りの良さが安心を生むんだろうか。
「くくく……まるで犬の散歩だな、情けないものだ」
ハクエンちゃん、酷い!
「ヘナチョコ聖女、準備が出来たならば先へ進むぞ」
憎まれ口をたたきながら、ハクエンちゃんはさっさと門扉をくぐる。「じゃあ、行こうか」と声をかけてくれるアルバに、ひとつ大きくうなずいて、私はゆっくりと一歩を踏み出した。
アルバの背中に隠れつつ、ビクビクキョロキョロと辺りを警戒しながら進むと、ものの数秒で門扉にたどり着く。……当たり前だけど。
淀みなく進むアルバに引き摺られるように門扉をくぐると、いきなり、ガシャーン! と派手な音を立てて門扉が閉まった。
もちろん門扉の側には人影すらない。
最悪だ。
絶対にここの主は訪問者の恐怖を煽る事を楽しんでる。
「……キッカ」
アルバの苦笑する声に、ハッと我に返った。
うう、ごめん。いつのまにかまたマントを引っ張ってたよ。右手にターバン、左手にマント。アルバの身動きをめっちゃ阻害してしまってた。
目をそらし、吹き出しつつも「大丈夫だ」と背中をポンポンと叩いてくれるのが、申し訳ないやら情けないやら。これじゃあダメだと頬っぺたを両手で叩いて気合を入れなおした私の目に、信じられないものが映る。
たった今通り過ぎてきたばかりの門扉の傍の松明に、いきなり灯りが灯った。
「……え?」
見間違い? と思って見直すよりも早く、足元の石畳に置かれたライトが、門扉から城までひとつ、またひとつと次々に灯っていく。
「うひゃああ!?」
なにコレ。なにコレ。
灯ったのも、明るいライトじゃないのよ!
なんか薄ぼんやりした、紫のライトだし。城へ導くみたいにゆっくりと灯っていくのが殊更に恐怖を煽る。私は早くも若干涙目になってきたというのに、悪趣味な演出はここからが本番! とでも言いたげだ。
アルバ、言っとくけど「おお! すげえな」って感心してる場合じゃないからね? 多分城に入ったらもっと色々仕掛けられてるに決まってるんだから。
ホントもう、不死王グレン、趣味悪すぎじゃないの!?




