不死王グレン、超ムカつく!
石を積み上げて作られた堅牢な城壁。黒々とした鉄格子の門扉。その奥にそびえるのはひび割れ、錆つき、蔦が絡まり、みるからに荒れ果てた朽ちた城。
めっちゃ怖い。
私、こういうホラーちっくなのは苦手なんだよ……! なんかほら、意味もなく怖いじゃない。
「ねえ、古城だからしょうがないかも知れないけど、廃墟感すごすぎない? ホントにこんなとこに不死王が住んでるの?」
「我はあの忌々しい賢者と違って軽々に嘘はつかん。そもそもこの城は千年前からこうだぞ。あやつの趣味でわざわざ意匠を凝らした造りにしてあるそうだ。……酔狂なことだ」
「あ、悪趣味……!」
「なんでも……あんてぃーく? とか言ったか……ふるくさいものが良いらしい」
「いやいや、これはアンティークとは言わないから!」
思わずツッコミを入れたら、「文句は本人に言え」と一蹴されてしまった。フン、と鼻を鳴らして気だるそうなままハクエンちゃんは門扉に躊躇なく近づいていく。
ああ、そんなにズンズン進まなくても……ハクエンちゃんにとっては不死王は旧知の仲で、この城も単に懐かしいくらいのものかも知れないけどさ、普通この外観はためらうよ?
もう少しこう、心の準備とかしたいんですけど。
「俺が先に行こう」
私の足が鈍ったのを察してか、アルバが先に立ってくれた。これまではしんがりで後方の安全を確保してくれてたんだけど、さすがにここはその広い背中を見ながら進みたい。やっぱりちょっと安心するもんね。
ほっとして、脱力したのがいけなかったのか。
いきなり。
重々しい、空気を震わせるような軋んだ音が響き渡る。
漂う霧の中で威容を放つ鉄格子の門扉が、ゆっくりと開いた。
「ご苦労」
ハクエンちゃんがこともなげに言うけれど。
「誰もいない! 誰もいないよ!?」
ハクエンちゃん、いったい誰に行ってるの!?
門が開いたのに、誰もいないじゃん!!!! なんなの、このホラー感! 自動ドアでしたーとかふざけた事言ったらシメてやるんだから!
「き、キッカ、割と苦しい……」
押し殺したような声に顔をあげれば、アルバが苦悶の表情を浮かべていた。
「あ、ごめん」
恐怖のあまり、アルバのマントを思いっきり引っ張っちゃってたみたい。そのせいで首が締まっていたらしいアルバは、私がマントを手離した途端、ゴホゴホと咳き込んでしまった。
申し訳ない。
本当に申し訳ない。
体を丸めて咳き込むアルバの背中を一生懸命にさする。
しばらく背中をさすっていたら、ようやくアルバの息が整ってきた。やっと背筋がシャンと伸びたアルバが、私をまじまじと見つめてニヤリと笑う。
「まさかキッカがこんなに怖がりだとはなあ。普段は気ィ強いのにな」
くう~……思いっきり! 笑われたじゃないのよ!
不死王グレン、超ムカつく!




