朝のバザールへ
「ああ、昨日、宿に戻る途中で懐かしい色を見つけたから買っといた」
聞けば砂漠の民は部族によって色が違うターバンを纏うらしい。
このあたりではめったに見ない鮮やかな青のターバンを店先で見つけて、つい懐かしくなって買ってしまったんだと、アルバは照れたように笑った。
……故郷にはつらい思い出しかないって言ってたけど、やっぱり愛着があるんだね。
そう思うと、なぜか私も嬉しかった。
だって、生まれて育って、たくさんの時間を過ごした場所だもの。僅かでも、意識しなくても、こうして故郷のものを愛しいと思える方がいいような気がするから。
「キッカもこれを被るといい。まだ朝だとはいえ、多分外はもうかなり陽射しがきついはずだ」
アルバが同じ色のターバンを私にもかけてくれる。
女性はヴェールのようにふんわりと纏うだけなんだって。こめかみあたりでピンで軽くとめるだけ。肌に触れるとサラサラと気持ちよくて、私もすっかりこの衣装が気に入ってしまった。
きっとこの町の乾いた風が通ると、ふわりと舞って綺麗だろう。楽しみだなあ。
「じゃあ、お留守番よろしく」
ハクエンちゃんに声をかけたら、しっぽの先だけを上下にぱたん、ぱたんと揺らしてお返事してくれる。
こっちを見ないくせに耳だけはぴくぴくと忙しなく動いているハクエンちゃんを宿に残したまま、私とアルバはさっそくバザールへ行くために部屋をあとにした。
宿の扉を開けて外に出た途端、まるで熱線で焼かれたように、肌に痛みが走る。
「さすがに強烈だな」
「うん、慣れないよね」
吸い込む空気が既に暑い。朝の八時過ぎでこの暑さなんだもん、そりゃ日中になんか出歩きたくないよねえ。バザールの時間設定も納得ってもんだわ。
それでも町の人達はさすがになれたもので、このくそ熱い中を颯爽と歩いて行く。
夜はもっとみんなのんびりと、特に目的もなく食べ歩いているような人も多かったけれど、この時間は買い付けや買い出し目的が大多数のようで、あちらでもこちらでも値切ったり交渉したりと忙しい。
ああ、夜と朝では屋台も違うんだ。
夜は食べ物類や衣類、アンティーク、お土産物なんかも多かったけれど、今は武具や宝石類、お肉、野菜と言った素材ものもたくさんある。
果物も色とりどり、砂漠でもこんなにたくさんの食材が揃ってるんだもの、砂漠地方最大の街っていうのも納得だな。
ん? この果物って……。
「見て見てアルバ。これってアルバの好きなサンシュの実じゃない?」
バザールの屋台の軒先に鮮やかな緑の果実を見つけて、思わずテンションが上がる。
このところちょっと元気がないように見えるアルバも、もしかしたらこの爽やかなサンシュの実の香りで復活するかも。




