賑やかな町で
久しぶりに屋台のご飯が食べたいという賢者サマのご所望で、私達はユレイの街へ戻って来た。
この前第二王子達から逃げてきたときは、屋台も閉まってるくらいの深夜だったから辺りは真っ暗だったけど、今はたくさんの屋台が立ち並んで活気に満ち溢れている。
「あー懐かしい、これこれ、このざわざわ賑やかな感じ! こういうの、たまにだと楽しいよねー」
砂漠の夜の街を満喫している賢者サマとは打って変わって、アルバとハクエンちゃんはずっと無口なまま。
まあ、ハクエンちゃんは仕方ないだろうけど、アルバはいったいどうしちゃったのか。
確かアルバは幼いころのトラウマで、この砂漠周辺が苦手だって言ってたから、そのせいなのかな……。ご飯を食べて夜を越したら、早々に次の三魔将がいる土地に行った方がいいかもしれない。
「はいはい、その仏頂面やめてねー、もうお店に入るよ」
「つあっ」
いきなり、賢者サマがアルバの額を指先で小突いた。完全に虚を衝かれたらしいアルバは、今目が覚めたみたいな顔をして目を瞬かせると、バツが悪そうにちょっぴり顔を赤らめている。
「すまん」
「素直でよろしい」
賢者サマが機嫌良さげに店に入って行くのを見届けて、アルバは私にもゴメン、と眉を下げた。
別にいいよ。誰だって考え事したい時くらいあるもんね。
でも、浄化の旅の間は魔物の気配に真っ先に気づくのはいつだってアルバだったから、常に気を張ってるんだなって思ってた。だから、アルバがこんな風に考え事で注意を疎かになっていること自体が割と珍しいんだよね。
よっぽど何か思うところがあるんだろうと、私はあえて気にしていない素振りで、勢いよく店を指差した。
「いいから、いいから。さ、食べよ? 久しぶりに野菜が食べたい!」
「……ああ」
なぜか寂しそうに笑って、アルバも私の後に続く。そうして入った店では、すでに一悶着が起こっていた。
「出て行っとくれ! 魔物なんか連れて入られちゃ、おっかなくってしょうがないよ!」
「だから大丈夫ですって〜。躾バッチリだし、この子お行儀超いいから」
賢者サマがお店の女将さんに、出て行けと詰め寄られている。この様子じゃどうやらハクエンちゃんを連れているのが悶着の原因みたいだけど……当のハクエンちゃんは床に丸まってふてくされてるし。
「どうしたの?」
「あ、キッカからも言ってよー。女将さんがハクエン連れて入っちゃダメだって言うんだ。おとなしいから大丈夫って説明してもダメの一点張りで」
「大人しい、ね」
アルバが若干ニヤついてる。うんうん、気持ちは分かる。ハクエンちゃんは大人しくはないよね。




