貴様、たばかったな!
「お前たち、魔王を復活させるんだろう?」
「何? 魔王に会いたいの?」
「……千年ぶりだからな。顔くらい、見たい」
「うんうん、そう言うと思ってた。ハクエンって意外に可愛いとこあるよね」
「ほんっとうにお前は我を苛立たせる奴だな」
ハクエンちゃんの猫パンチが賢者さんの脛を殴打するけど、もちろん大したダメージには至っていないみたい。なんだかんだで仲良さげに見えるのが不思議だ。
「別に一緒に連れて行ってあげてもいいけど、ひとつだけ約束してくれる?」
「なんだ」
「君は乱暴だから……ねえ、ハクエン。暴れない、噛みつかない、人間や物にダメージを与えない。僕……ミナトと、キッカ、アルバの言う事にはちゃんと従うって約束できる?」
「今の我が暴れたところで大したことはできん」
悔しそうに、ハクエンちゃんがそっぽを向く。それでも賢者サマは、下から覗き込むようにハクエンちゃんと目を合わせ、答えを要求する。
「そうだとしても、ちゃんと約束してくれなきゃ魔王の元へは連れて行かない。約束できる?」
「しつこい……」
「約束、できる?」
ハクエンちゃんの顔を強引に自分の方に向け、賢者サマはさらに答えを強要した。
「わかった……約束、する」
ふて腐れたようにハクエンちゃんがそう約束した途端、ハクエンちゃんを中心に黄色い光を帯びた魔法陣が展開し、ギュルギュルと音を立てて高速で回り出し……ついにはハクエンちゃんの体の中に吸い込まれていく。
「ななななな……何? 今の、何!?」
思わず声を上げてしまったけれど、うろたえたのは私だけじゃなかった。
「き、貴様! 貴様! また、たばかったな!」
「君は千年たっても学習しないねー」
賢者サマは笑いながら「ハクエン、おいでー」なんて言って、両手を広げてみせている。
そうしたらなんと。
「くそう、くそう、貴様……っ」
悔しそうに唸り声を上げながら、ハクエンちゃんが賢者サマの方へじりじりと近づいて行ってるじゃないの。
え、これ、さっきの呪をかけたとか言ったあれの効果なの?
「おおー、効いてるね。思ったより効果が強いのはハクエンの魔力がガッツリ落ちてるからかな?」
楽しそうな賢者サマに、さすがにアルバが「あんた、えげつない事平気でするよな……」とツッコミを入れる。嫌々近づいて来たハクエンちゃんを抱き上げながら、賢者サマは「しょうがないでしょ」と唇を尖らせた。
「従魔としての契約をしない以上、さすがに獣王を野放しのまま魔王の元へ連れて行くのは僕も気が引けるからね。とりあえず言葉で呪をかけさせて貰ったまでだよ」
ハクエンは千年の昔、獣王として活躍していた頃は野性味あふれる美貌のイケメン、でもしゃべると割と残念……という裏設定があったんですが、これが生きる事はきっとこの先もないんだろうな……。




