彼女はきっと、
「うん、キッカ達だって警戒してるだろうしね。でも、どれくらい滞在するかも分からないじゃない? この町には三か月以上いたんだし」
「ああ、だがそれは追手がないと思っていたからかも知れない。キッカがアルバと共にいるのならば、私達が彼女の居場所を見つけられる事くらいは理解しただろう」
それは、そうだろうね。どうやって見つけているのかは分からなくても。
「……キッカは、書庫に居たな」
「え?」
ルッカス様の小さな呟きに、僕は思わず顔をあげた。
「私達がこの屋敷に踏み込んだ時、確か彼女は書庫に居ただろう」
確かに。……キッカは何を調べていた?
この街では聖女である事を隠し、普通の冒険者として活動していたはずだ。そんな彼女が領主の屋敷にまで入り込み調べていたものって、いったいなんだろう。
この港町ルディの領主の屋敷で調べられる事。
そして、次にキッカが向かったのは、砂漠の街ユレイ。
考えれば、おのずと答えは見えてくる。
「三魔将……!」
僕も、ルッカス様も、ほとんど同時にその言葉を口にしていた。
千年の昔。このカールロッカ大陸がまだ魔王の覇権下にあった頃、この港町ルディの近海は龍王アレヒアルが、ユレイを取り巻く砂漠地帯は獣王ハクエンが、そして広大なジャングルは不死王グレンが治めていたという。魔王を武で支えた、信頼篤い三魔将たちだ。
何をするつもりか知らないけど、多分キッカは、この三魔将の城があったとされる場所を巡っているに違いない。
「キッカは転移の奇跡をもっている。足跡を必死で追っても辿り着く前に逃げられてしまう可能性が高い」
「そうだよね、目的地が分かってるなら待ち伏せする方が確実だもんね」
「ああ、目指すべきはあの広大な密林、不死王グレンの城跡だ」
「了解!」
そこまで決まれば話は早い。僕たちはまず、ジャングルの只中にあるエイリスという街に行く事に決めた。
リーンとグレオスにも翌朝早くに次の街に向かう事を言い置いて、早々にベッドに入る。
明日からはまた、馬を駆ってろくに休みもしないで走らなきゃならないんだ、取れるときに休息をとっておかないと体がまいっちゃうからね。
まったく、僕やルッカス様にこんな思いまでさせて、いったいキッカはなにがしたいんだ。おとなしく結婚さえしてくれれば幸せにするって言ってるのにさ。
よりによって、アルバと逃げるなんて。
あんな奴、僕たち五人の中で、一番身分だって下じゃないか。
悔しくって情けなくって、せっかく早くベッドに入ったっていうのに、その日はなかなか寝付けなかった。




