次に向かうべきは
アルバは多分キッカと一緒だ。そしてグレオスはキッカの逃亡とは無関係なんだろう、こちらを怪訝な顔で見上げてるみたいだし。
残る一人は。
ルッカス様と二人、頷きあって向かった先は当然リーン達の部屋だ。だって、キッカが転移で逃げた以上、リーンが封呪を解いたとしか思えないじゃないか。
でも、返事も待たずに部屋に飛び込んだ僕達の目に映ったのは、床に倒れ臥すリーンの姿だった。
「リーン!?」
ルッカス様が駆け寄り、乱暴に頬を叩く。
痛そうな音が数回響いて、ようやくリーンからくぐもったうめき声が聞こえてきた。
「う……」
「気が付いたか!」
「痛……あ、れ? ルッカス様……?」
さすがにあれだけ叩かれれば痛いよね。無意識に頬を押さえたリーンが、目をパチパチと瞬いている。でもさぁ、呆けている暇なんかないんだよ。
ルッカス様も、焦れたみたいに口を開いた。
「キッカが逃げた。リーン、お前は何か知っているのではないか?」
「え、あ……」
ルッカス様の問いに、リーンがサッと青ざめる。そして、あからさまに慌て始めた。
「す、すみません! 僕、封呪を破られてしまったみたいで」
すみません、すみません、とひたすら頭を下げるリーン。どうやら封呪を破られた衝撃で気絶していたらしい。
必死な様子に見えるけど、どこまで本当なんだか……僕はルッカス様と顔を見合わせたけれど、それでもリーンを信じるしかない。リーンの封呪がないと、一瞬だってキッカの転移を封じる事なんてできないんだから。
まったく、聖女の奇跡なんて、やっかいなものだよ。
「キッカが転移で逃げた。今は砂漠の街、ユレイにいるらしい。……アルバも一緒に逃げたようだが」
「すみません」
殊勝な顔をしているけれど、意外と驚いてないようにも見えるけどね。
ルッカス様も疑念はあるみたいだけれど、それ以上追及はしなかった。そりゃそうだろう、だって彼の師匠が王城に臥せっている限り、どうせリーンは本当に僕らを裏切る事なんてできないんだから。
「ルッカス様、それよりも今はキッカを追いかけないと」
「そうだな、彼女を手中に収める事の方が重要だ」
リーンとグレオスにも声をかけ、今のうちに体を休めるように言い渡し、僕はルッカス様と部屋に戻る。それはもちろん、今後の対策を練るためだった。
アルバがキッカと逃げた以上、リーンやグレオスだって考えをすべて話せるほど信用するわけにはいかない。僕が簡易的に淹れた紅茶を飲みながら、ルッカス様と二人、頭を悩ませる。
「さて、どうしたものか。ユレイに向かったところでこちらが到着する前に逃げられる可能性もあるな」




