焦らずにはいられない
まさかの金髪クルクル巻き毛視点です(°▽°)
また、キッカに悪態をついてしまった……。
僕は自己嫌悪にかられながら、そっとため息をつく。
ベッドの中に入ってもなかなか睡魔は訪れなくて、ただゴロゴロと無駄に寝返りをうっていた。
王都からずっと馬を替えながら走り続けてきたんだから、体は当然疲弊している。眠れない筈はないのに、キッカの怒った顔とあきれ果てたような顔が交互に瞼に浮かんで眠れない。
あんなに傷だらけになって……勝手に僕の傍を離れるからだ。僕が傍にいさえすれば、あんな傷、絶対に負わせないのに。
悔しくて、もどかしくて、また寝返りをうつ。その途端に、キッカの言葉が脳裏によみがえった。
「守って貰った覚え、ないんですけど」
思わず自嘲の笑いがこぼれる。守って貰った覚えがない、だってさ。
二年もずっと、いつだって一番キッカの近くで、命を張って結界を維持してきたっていうのに、随分だと思わない?
ムカつくんだよ、あの女。
アルバやリーンには楽しそうに話しかける癖にさ。グレオスの指示なら、随分と厳しい訓練にだって文句ひとつ言わない癖にさ。
どうして僕にだけいつも半目で、興味なさそうな態度ばっかりとるんだよ……!
忌々しいと思っているのに、僕の目はなぜかキッカの居場所を指し示す魔具を見つめてしまう。そして、思わず息を呑んだ。
魔具が。
魔具の光が明滅している。
これは、キッカが居場所を瞬時に変えた……転移の術を使った時だけに現れる、特殊な反応じゃないか!
「何で……! キッカの転移は封じたんじゃなかったのか!?」
僕は走った。
ルッカス様を問答無用で叩き起こし、連れ立ってキッカの部屋へと急ぐ。
「アルバがいない……!」
扉の前で監視をしていた筈のアルバの姿がない。扉を開ければ、中はもぬけの殻だった。
「逃げられた……! アルバも一緒なら、まだそう遠くへは行っていない筈だ。一刻も早く、探し出さなければ」
焦った様子のルッカス様の横で、僕は深くため息をついた。
「無駄だよ」
だって、さっきまでは転移中で居場所が特定できずに明滅していた光が、ある場所を明確に指している。
「キッカはユレイの街にいる。どうあがいたって、すぐには追い付けない」
「ユレイ……あの、砂漠の街か?」
「そう、転移したんだ」
「転移は封じた筈だろう」
そう口にしつつ、ハッとした様子でルッカス様が窓に駆け寄る。それは多分、一抹の不安がよぎったからだろう。
グレオスも、アルバも、リーンも、キッカに同情的だった。彼らが結託してキッカを守護し、逃がしたのであれば納得がいく。
「グレオスは、居る」
窓の下を見下ろして、ルッカス様はあきらかにホッとした息をついた。




