同行するのも止むをえまい。
「あはは、ハクエンったらダメダメだな〜超可愛い」
賢者らしき人は、それはもう嬉しげにハクエンちゃんを撫で回している。それでもハクエンちゃんは短いお手手でマタタビを抱きしめ、顔を擦り付けてはうっとり。ふにゃ~ん……ゴロゴロゴロゴロ……と、終始だらしない鳴き声を漏らしていた。
マタタビの威力、恐るべし。
感心してる場合じゃなかった。この、ノホホンとした人が本当に賢者なのならば、これほど有り難い事はない。だって私、もともと賢者を探そうと思ってたんだもの。
「あの、私、あなたを探してたんです!」
「んー?」
「賢者さんなんですよね!?」
「そうそう」
賢者様らしき人は興味なさそうに、こちらを振り返りもせずにハクエンちゃんをモフモフモフモフと撫で回している。
もうちょっとだけ、こっちにも興味持って欲しい……。
若干切ないんですけど。でもそれくらいで落ちこんではいられない。なにせこっちだって日本に帰れるか否かがかかってるんだもの。
「昔々、魔王を倒してしかもこの大陸を浄化したっていう、すごい賢者様なんでしょう? どうしても聞きたいことがあるの!」
「ふーん。まあ暇だし、いいけど。でもこのダンジョン、ほっとく訳にもいかないしねえ」
ジト目で睨まれた。封印したのがこの賢者様なんだとしたら、申し訳ないけどもう一回封印してくれないものだろうか。正直私も日本に帰れさえすればダンジョンに用はない。
「このダンジョン封印するの面倒なんだよ。魔物だってわんさかいるのにさあ、ダンジョンの奥まで行って封印の陣の上で相当魔力を注ぎ込まないといけないんだから」
「ええと、転移で行くわけには」
「さすがにダンジョンの中はそういうの無効なの」
パンパン、と裾の埃を払いながら賢者様がゆっくりと立ち上がる。うーんっと伸びをして、にっこりと私とアルバに笑いかける。その笑顔が黒い気がするのは私の考え過ぎだろうか。
「もちろん一緒に行ってくれるよね。なんせ君たちが封印解いたんだから」
「はい……」
ここで断れる人っているんだろうか。
「話はダンジョンを進みながら聞いてあげるよ。そこの君、察するに聖女の護衛だろう? 腕がたつんだろうから、君先頭ね」
「はあ」
「じゃ、行こうか。聖女ちゃんはそこのダメ獣王をちゃんと確保しといてね」
あれよあれよという間にパーティー編成させられて、気が付いたらダンジョンの中に入っていた。自然にできたようなゴツゴツした土壁が続く洞窟は、どこか乾燥していて入り口からたかだか五メートルほども進むと足元が見えなくなるほど暗い。
「うーん、さすがに灯りが要りそうだねえ」
小さく呟いて、こともなげに辺りを照らす魔法を無詠唱でやってのけるこの人は、本当に大賢者その人なんだろう。賢者様に聞きたいことなんか一つだけだ。
早速私は、賢者様に送還の話を切り出すことにした。




