獣王ハクエン
くくく…………人間たちの愚かなことと言ったら!
俺は込み上げてくる笑いを押さえるのに苦労していた。
目の前では聖女とその従者が、何を考えているのかはわからんが、俺の城の痕跡を探そうと躍起になってスコップを振るっている。
「獣王ハクエンの城を探す」なんて息巻いているが、まさか目の前にその獣王ハクエンがいるなどとは、夢にも思わないんだろうなあ、まったくもって愚かなことだ。まあ、こんなラブリーな子豹が獣王だとは、あやつらも想像もつかないのであろうが。
しかもスコップ。
そう、スコップなどで、俺の城を掘り当てようというのだ。なんという短慮。きっと百年たっても掘り当てる事など叶わないだろう。
なんせ俺の城はこの荒野の真下に広く広がるダンジョンだ。しかもその入り口は幻影の呪で人の目には見えないように工夫している。俺を倒すか、もしくは前後不覚にでもしなければ、到底解けない幻影だ、どれだけスコップで掘ろうとも、入り口すら見つけられるまい。
あまりに愉快で、俺の長いシッポも、ごきげんにピタン、ピタンと緩やかに地を打つ。
やっと魔力が溜まって体が大きくなってきたと思うと、どこからともなく現れて「浄化する」だのなんだのほざいては魔力を散らす聖女のせいで、いつだってまたこの幼獣の姿からやり直しだ。本当に忌々しい。
これまでもいろんな聖女がやってきたが、全盛期の体に戻る前に来るせいで一矢も報いることができないのが非常に腹立たしかった。
それがどうだ。
浄化してから時も経たぬうちにまた聖女が現れるから不審に思って様子を見にきてみれば、見つかる筈もない城への入り口を探して汗水流しているではないか。
ああ、愉快、愉快。
アホな聖女とその従者が、照り付ける太陽の下での不毛な作業にどんどん疲弊していくのを楽しく見物していたら、聖女の荷物から何やら魅惑的な匂いが流れてくるのに気が付いた。
なんだかこう、甘やかな……久しく嗅いでいない匂いだ。
思わずフラフラと、聖女の荷物が放置されている場所に近づいてしまった。浄化されて体が小さくなると、どうしても衝動も子豹に戻ってしまうらしい。好奇心が抑えられない。
以前なら冷静に判断すべき事項だが、体が勝手に聖女のリュックに吸い寄せられていく。近づけば近づく程甘やかな香りは増してきて、足取りもどんどん軽くなる。
リュックの中に手を突っ込んで、中をちょいちょいと探った俺は、思わぬ匂いに鼻をすんすんと鳴らす。
ん? これは。
他にもいい匂いが……食欲をそそる、肉の香りもしてないか? おのれリュックめ、早くその口を開けて中身をぶちまけるがいい!
素直に中身を渡さぬリュックに鉄拳制裁を加えようと爪を振り上げたが、その途端に目の前からリュックが消えた。
「こーらー、いたずらしちゃダメでしょ!」
ポイントや感想は気にしないつもりでやってきていたんですが……やっぱり感想やポイントが伸びるとついつい先が書きたくなるなって実感中。
体は正直なのです。誘惑に勝てないのです_:(´ཀ`」 ∠):




