荒野の浄化ポイント
その日遅くまで話し込んでしまった私達は、ぐっすりと眠ってから翌日昼過ぎにゆっくりと起きだした。
たっぷりの水と携行食、アルバにもたせる幾ばくかの薬草類、そしてスコップ。必要な物を買い出したら、さっそく荒地の浄化ポイントに出発だ。
「なんでまたスコップなんか」
「そりゃあ土を掘るのよ」
首を捻るアルバに二本のスコップを持ってもらって、私は有無を言わさず浄化ポイントに転移した。
そこは、見渡す限りの茶色い世界。荒れ果てた荒野には立ち枯れた木と乾ききった僅かな草。ひび割れた大地がどこまでも続いている。私達の降り立った浄化ポイントだけに、ほんの少しの岩影があるばかりだ。
「いつ見ても、この世の終わりみてーな風景だ。生きてる感じがしねえ」
孤児だったというアルバはもともとはこの近辺の出身らしく、この荒れ地の浄化ポイントが苦手だった。子供の頃の、乾きと飢えでいつ命を落とすか分からない恐怖をを否応なく思い出すかららしい。さっさと終わらせて、さっさと次に行きたいところだ。
アルバの気を逸らすため、周囲を軽く見回した私は、岩陰の小さな生き物を指差した。
「そうでも無いわよ? ほら、この前ふてぶてしいヤクザっぽいニャンコがいたとこに、可愛い子猫ちゃんがいる」
岩陰を住処にしているのだろう、大きな耳と長くて先がくるんと巻いた尻尾を持った、愛らしいニャンコが地面に長く伸びたまま、こっちをつぶらな瞳で見ている。
浄化の旅で訪れた時に飛びかかって来た攻撃的な大きなニャンコは見当たらない。この子猫ちゃんのために食料でも探しに行っているのだろう。命が繋がれている感じがして、それはそれで嬉しいよね。
「ママはどこにいったの? 狩りかな?」
子猫ちゃんに手を伸ばしたら、毛を逆立てて威嚇されてしまった。なりは小さくても、立派に魔物なんだなあ、とちょっと感心。まあ、それでも可愛いんだけどね。
「あの凶暴な砂幻豹がママなわけねーだろ。第一あいつはまだ成体にもなってねえぞ。成体になるにゃあと数年はかかる」
「へえ、大きくなるのに時間がかかる種なのね」
「一頭を時間をかけて大事に育てる子煩悩な魔物だって聞いたことがある。しかし妙だな、そう頻繁に子供なんか生まれない種なんだが」
訝しむように目を細めたけれど、襲って来ようとしない魔物には興味がないらしいアルバは、すぐに私の方に向き直った。
「で? 俺はここで何すりゃいいんだ?」
「あ、そのスコップひとつちょうだい。早速だけど気合入れて掘りましょ」
「へ? え? まさか、この荒れ地を掘るのか?」
「うん。ここね、昔々まだ魔王がいた時代に、獣王ハクエンが守ってた城跡じゃないかと思うの。それっぽい瓦礫がでるまで、とりあえず頑張って掘りましょ!」




