砂漠の街ユレイの夜
その一つは港町ルディ。
その程近くにある小さな島に浄化のキーポイントはあった。
街のずっとなだらかな草原が続いているのに、削り取られるように切り立った崖があり、その下は即海という不思議な地形。その崖から見える先に、その小さな島はあったんだ。
海からでている部分なんかほんの僅か。アパートの一室分くらいしかないその小さな島が浄化のキーポイントだなんて不思議だと当時は思ったけれど、領主様の館の書庫の書物によると、そこは四天王のひとり龍種の長アイルトンの治める城だったらしい。
勇者との壮絶な戦いで大地が削り取られ、彼の治める城ごと海中に沈んでしまったのだと、書物には綴られていた。
城が海中に沈んでいるとなると、いきなりアタックするのは難しい。私は他の三つの城の情報を調べた。
正直、最後の浄化の地、魔王城跡地だと思われる場所は周辺に生息する魔物も強くて、今の私の実力じゃひとりで探索するのは無謀だと思えたからだ。
四天王の城跡で探索しながら腕をあげていこう、そう考えていた。
その最初の場所として私が選んだのが、この砂漠の街『ユレイ』。正確には、そこからさらに南西の荒れ果てた荒野が浄化ポイントだ。
「そんで?」
促すようなアルバの声にハッとする。つい考え込んでしまっていたみたい。
「なんか当てがあるんだろ? 俺は何をすればいい」
その聞き方に、あれ? と違和感を感じた。
「何するつもりだとか何処に行くのかとか、聞かないのね」
「あー、必要があれば言えばいい。つーか、大事なことは頭の中にしまっとけよ。もし俺が捕まって尋問でもされたら厄介だろ」
物騒な言い方にドキリとする。さっきからアルバの警戒っぷりは私の想像をはるかにこえている。私は、自分の認識の甘さを思い知らされるような思いだった。
私は王家を、甘く見過ぎていたのかもしれない。
「そうだお前、金持ってるか?」
いきなり、アルバが軽い調子で聞いて来る。アルバの言葉で少し緊張していた私は、一気に脱力した。
「まあ、冒険者として結構稼いだから、それなりに」
「押しかけだからあれだけどよ、こういうのは立場をはっきりさせといた方がいい。ってことで、俺を雇わないか? 護衛任務だ、安くしとくぜ」
思わず目を丸くしたけれど、確かに考えれば私はもう聖女の任務は終わったわけで、アルバは国から雇われてるわけじゃない。むしろ逃亡中なわけだから、リスクしかない。
いらないわよ、帰ってよ。そう断る事もできるけど、正直これから行く四天王の城と魔王城跡は私一人で探索するには荷が重い。アルバがいれば無理がきく。
そう考えていたら、アルバが再び口を開いた。
「俺は冒険者だから依頼があれば基本、命はって完遂するのが信条だ。でも、依頼人を選ぶ権利は俺にだってあるからな。使い捨ての駒としか思ってねえ王の依頼よりは、俺は一緒に命張ったお前を助けたいわけ」
「アルバ……」
「あんなに頑張ったんだ、これ以上あいつらの好きにされるいわれもねえだろ。お前は日本に帰る。そのために俺を雇え」
アルバに重ねて言われる頃には、私の気持ちはもう固まっていた。
「お願いするわ。これ、手付金」
「まいど。確かに請け負った」
リスクの高さの割にはあまりにも少ない手付金だけど、アルバは嬉しそうに笑って受け取ってくれた。次いで、差し出された手をしっかりと握って固い握手を交わす。
「任務だからな。お前の指示には従うし、命をかけて絶対に守る。お前も俺を無駄死にさせないように気をつけてくれよ?」
そろそろ更新をゆっくりにします。
シナリオ通りに~の書籍化作業に集中しないとそろそろやばいので…。




