わずかな手がかり
この三か月、私はこつこつと情報を集めてきた。
ついさっきまでいた港町ルディで私が探していたのは、賢者の情報とその昔この大陸を『魔の都』として統べていた『魔王』に関する情報。
それも最初に力を入れて調べていたのは、主に賢者に関する情報だった。
なんせ『魔王』は敗者だ。私が日本で読んできた神話や史実を見る限り、古来から勝者は敗者のすべてを基本的に壊すものだ。文明や宗教、言葉や習慣、技術や生活基盤、勝者は全てを奪ってしまう。
この国では『魔王』は倒され、『魔族』は賢者の手によって長い長い年月をかけて駆逐された、と伝承されている。そんな扱いの人たちが持っていた技術や文献が、無事な気がしなかった。
事実、多分魔王城跡だと思われる遺跡はボロボロに崩れ去っていて、破壊され蹂躙されたもの悲しさが漂っていたわけだし。
一方、賢者ならまだ望みがある。
少なくとも賢者は人間だったみたいだし、知識を明文化する可能性は高いと思う。特に賢者と呼ばれる程の人物ならば、自分の知識の集大成を後世に残したいんじゃないだろうか。
それになんてったって彼は勝者だ。それも今なおこの地を興し守った偉人として伝承されているわけだから、大事にされることはあれど、文献が遺棄されたり焚書されることはないだろう。
数百年にもわたり老いる事すらなかったという賢者。
彼ならば、その膨大な知識の中に『送還』という術があったかも知れない。
もしかしたら私のように、異世界から召喚され、なにかしらの特殊能力を持つ人物だったかも知れない。そうでなくとも、別の大陸から来たんだとしたら、その大陸にいけば『送還』のヒントが得られるかもしれない。
私は、それを期待していた。
ところが、有用な情報は得られない。様々な地方を回る冒険者や街のおじいちゃん、おばあちゃんから話を聞きまくったけれど、聞けるのはなんともありきたりな英雄譚。
賢者がいかにしてこの大陸を浄化したのか、何の見返りも求めず人々を助け守ったのか。その高潔な事だけが美しく語られ、最後には判で押したように、人々の繁栄を見届けてふらりといなくなる。総じて賢者への賞賛のみで話が完結していた。
彼が残した文献や、当時の住まい、子孫などの個人としての生きざまなんか触れられない。彼の容姿や使える魔法、なぜルディに来たのかさえ伝承されてはいなかった。大切な情報は秘匿され、あたりさわりのない情報だけが耳に入ってくる、その違和感。
まるで、賢者の痕跡を隠すように。
それが賢者本人の思惑によるものなのか、それとも後にこの大陸を統べた者たちの仕業なのかは、私には判断がつかない。けれど、賢者の痕跡を追うのは難しいことだけは理解した。
逆に、話を聞いていく中で『魔族』と『魔王』については、ポロリポロリと新情報が織り交ぜられる。
『四天王』と呼ばれる魔族たちが居た事。
『四天王』は各自の城を持ち、魔王城を守る布陣を敷いていたという事。
そして面白いことに、彼らの城があったとされる場所は、悉く私達が浄化の旅でキーポイントとして大掛かりな浄化を行った場所だったりするのだ。




