【SS】いつか、貴女に会えるだろうか
11月も終わりなので、もう一本SSをあげます。
早いもので書籍が発行されてからもう一ヶ月も経つとは。
今回は「リーンのその後」です!
キッカさんが彼女の世界に帰ってしまってから、いったいどれほどの時が経ったのだろう。
僕は今、お師様とともにこの大陸の各地を、転々と旅している。
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「リーン、いつまでそうして空を眺めているつもりだい?」
お師様の声に、ふと我に返る。
情けない、僕はまたぼんやりと空を眺めていたみたいだ。
キッカさんがアルバさんや魔王たちを連れて元の世界に帰ってしまってから、早いものでもうひと月が経ってしまった。
いくら空を眺めてみたところで、キッカさんに会えるわけでもないのに、気がつくとこうして空を眺めている。
別にキッカさんが空に消えたってわけでもないのに、バカな話だ。なんとなく、あの空の向こうにキッカさんがいるような気がしてるのかな。
自嘲めいた笑いを漏らせば、お師様は「困った子だねえ」と苦笑する。
手に持ったままだったティーカップはいつのまにか空になっていた。お師様が熱い紅茶を注いでくれて、僕は砂糖をひとかけ入れて、ゆっくりとそれをかきまぜる。
キッカさんは砂糖を三つも入れる人だった。
逆にアルバさんはストレートで飲む人で、よく「砂糖の味しかしねーだろ」とキッカさんとやりあってたっけ。
そんな些細なことまで思い出して、また寂しくなってしまう。
ああ、僕は本当にあの二人が好きだったんだ。
「リーン」
お師様の声にハッとする。見上げたら、お師様はついに楽しそうに笑い出した。
「君は随分といい出会いをしたんだねえ。まるで失恋でもしたかのようだ」
からかわれて少し恥ずかしくなる。でも、確かにそうかも知れない。もう会えないと分かっているからこそ、こんなにも寂しいんだろう。失くす、ということの重みがこんなにもつらい。
「失恋を癒すには、新しい恋、というだろう?」
茶目っ気たっぷりにお師様が破顔する。こんなことを言えるくらいに回復してくれたのは凄く嬉しい。
やっぱりあの賢者は偉大だ。
キッカさんのおかげで穢れは浄化されたし、キッカさんは望みどおり帰還できた。しかもお師様だって二年以上寝たきりだったとは思えないほどに回復したんだから、こんなにしょげてちゃバチが当たるよね。
僕は、お師様に精一杯、笑って見せた。
「まだそんな気になれませんよ。新しい恋だなんて」
「そうかな、私はリーンがすぐに夢中になると踏んでいるんだがね」
軽くウインクして、お師様はテーブルの上に荷物を広げていく。
それは、見慣れた僕の旅装束だった。
「こんな閉ざされた部屋の中でクサクサしてるから、そんな辛気臭い顔になるのさ。さあ、旅に出ようじゃないか。私たちの恋人に会いに行こう!」




