獣王ハクエンは絶対に屈しない!⑩
「よし、修復完了。今回みたいなことがない限り、また千年は大丈夫だね」
手際よく魔法陣を修復したらしい腐れ賢者は、晴れやかな顔で振り向いた。なんかこう、やり切った感の滲みでた顔が微妙にムカつくのだが。
「さ、さっさと地上に帰ろう。久しぶりに頑張ったからめっちゃ疲れた。腹減ったし、布団が恋しいよ。じゃあね、ハクエン」
「待て」
オレを一瞥しただけで、あまりにもさっさと出て行こうとするその後ろ姿に、気が付いたら腐れ賢者のローブの裾を、前脚で押しとどめていた。
ぴたりと止まったヤツの脚に、しばし無言で考えた。
押しとどめたからには、とりえあず何かは言わなくては。
「……お前たち、魔王を復活させるんだろう?」
他に言うべき言葉も見当たらなくて、その言葉がポロリと飛び出る。
腐れ賢者は、振り返るとニンマリと笑みを浮かべた。
「何? 魔王に会いたいの?」
「……千年ぶりだからな。顔くらい、見たい」
というか、あの女の魔力は本当に極上だった。あの魔力をもう一度、この身に浴びてみたいというのは、正直な気持ちだ。
「うんうん、そう言うと思ってた。ハクエンって意外に可愛いとこあるよね」
ニヤニヤするな!!!!!
思い出したぞ、貴様は千年前もそうやって、俺をからかっては笑っていた。
鬼神のような強さで、勇者と名乗る男や、その仲間と共にオレを死ぬ間際まで追い詰めたくせに、とどめを刺そうとした仲間を言葉巧みにかわし、封印すると決めたかと思うと、こうしてチャラチャラとやくたいもない話をしていたんだった。
ああ、本当にムカつく。
千年前も今も、オレはこやつの掌の上で踊らされている。
「ほんっとうに貴様はオレを苛立たせる奴だな」
腹立ちまぎれに腐れ賢者サマの脛を連打してみたが、もちろん大したダメージには至っていない。
むしろ楽しそうに笑って、奴はオレの前にかがみこんだ。
「別に一緒に連れて行ってあげてもいいけど、ひとつだけ約束してくれる?」
「なんだ」
「君は乱暴だからね。……ねえ、ハクエン。暴れない、噛みつかない、人間や物にダメージを与えない。僕……ミナトと、キッカ、アルバの言う事にはちゃんと従うって約束できる?」
「今のオレが暴れたところで大したことはできん」
なにをたわけたことを言っているのだ、この男は。
さっきのオレのパンチで分かっているだろうに。悔しいが、本当に今のオレがなにをたくらんだところで、そこらの矮小な魔物ほどのダメージも与える事ができないというのに。
悔しくて顔をそむけたというのに、腐れ賢者のヤツはわざわざオレを下から覗き込んできた。
しっかりと目を合わせ、答えを要求する。
不思議なガラスの奥の瞳が、いやに真剣で、なぜか目が離せない。




