獣王ハクエンは絶対に屈しない!⑦
オレの寝所に近づくにつれ、腹の底からふつふつと怒りが沸き起こってくる。
根城をヒトに踏み荒らされるなど、あってはならぬ。
ヒトの匂いが……とりわけ、腐れ賢者の匂いがオレの根城に染み付くなど、どうあっても許せるものではない。
それは、本能から沸き起こってくる嫌悪感だ。
気が付いたら敵わぬ体をおして、全力で幻影の術を張り巡らせていた。
オレの寝所にある魔法陣を動かさねばどうにもならぬことくらい、オレとて分かっている。それなのに、嫌悪感の波が襲ってくるのをどうにもこうにも止められない。
必死でそれを堪えていると、尻尾は不機嫌にパタパタと聖女の腕を打ち、喉はグルグルと異音を奏でる。
「おや、ご機嫌ナナメかな? 無理もないねえ、なんせいよいよ、君の居住スペースの近くまで来たんだものねえ」
腐れ賢者のヤツがニンマリと笑う。
オレの葛藤を十分に理解している顔で、馴れ馴れしくオレの鼻を軽くピンと弾いた。
なんたる屈辱!
鼻の先がジンジンして、ヤツからもたらされた感触を少しでも和らげようと前脚で鼻をこする。ヤツを睨み上げ、唸り声を大きくしてはみたものの、その舐め腐った顔は微塵もゆらがない。
「唸っても無駄。確かこの土壁の向こうが君の根城だったね」
見せつけるように、目の前の土壁に腐れ賢者が手を当てる。その手はズブズブと壁の中に入っていった。
本当に腹立たしいやつだ。こやつは確か、千年前にもオレの幻影を見破ったのだ。
してやったりの顔で俺を見てくるが、そんな顔をせずともわかっておるわ。全盛期のオレの幻影ですら見破るようなヤツが、今のオレのチンケな幻影に惑わされるわけもない。
本当に、ほんっとうにムカつくが、こやつの実力だけは本物なのだ。
「ハクエンお得意の幻影なのさ。根城を隠すくらいの幻はなんとか発動できたみたいだね。マタタビの効果が薄れてきたかな?」
「いつまでも……オレをこのような怪しげな草で支配できると思うなよ……!」
精一杯に強がれば、腐れ賢者はからかうように体の半分くらいを土壁に埋めたり出したりして挑発してくる。
「ま、幻影だって分かってればこんな壁なんでもないんだよね」
知っておるわ、そんなこと!
「く……っ! おのれ、おのれ……! 人間ごときが……!」
ほんっとうに、ムカつくヤツだ!
やっぱりコヤツを俺の寝所に入れるなどもってのほかだ!
こやつの匂いが寝所に僅かでもついてみろ! 安眠できぬどころか、腹立たしさで悪夢をみるわ!
「はいはい、その人間ごときにコテンパンにのされて封印されちゃったのは誰かなー?」
さらにヤツに挑発されて、オレは切れた。
絶対にこの爪で、ヤツの皮膚に癒えぬ傷をつけてくれるわ!
『帰れない聖女は絶対にあきらめない!』
今回は電子書籍も同時に発売なのです。
前のときは電子書籍って一ヶ月遅れくらいで発売になってたので、私もちょっとびっくりしました。
ちなみに電子書籍はSS付きでおトク!どちらもアルバ視点です。
電子書籍にはもれなく
◆アルバがターバンを買った時のお話付き。
Book★WalkerだとさらにもうひとつSS付き。
◆リーンとアルバの約束のお話。
紙の書籍も買って欲しいけど、SS、本当に自分でも気に入ってるので、読んでもらえると嬉しいなぁと思います。




