獣王ハクエンは絶対に屈しない⑥
「まあとにかくさ、状況的にも性格的にも復活させたところで今や魔王は脅威にはならないから安心して。あれから随分、長い長い時が経ってるから魔王を復活させられるなら、僕も会って伝えたいことがある。だから、君たちにもちゃんと協力するよ」
信じられない様子の聖女たちに、腐れ賢者はそう説明した。
なんともまあ、ヒトらしい言い分ではないか。
自分で封印しておいて、「復活させられるなら、会って伝えたいことがある」ときたもんだ。
言いたいことがあるのなら、千年もの時を無為に過ごさず、いいたい時に言えばよかったのだ。そもそも封印したのはこの男だ、封印を解くことなど容易かろうに。
躊躇してウジウジしているだけのくせに、まるでそれが致しかたないことのようにのたまう。ヒトとは本当に面倒くさい。
常に飄々としてつかみどころのないこの腐れ賢者にも、そんなヒトらしい弱さがあったと思うと殊更に愉快だ。
魔王に会えた時、いったいこやつが何を話すのか。
オレはそれが見てみたくなった。
オレなりの目的も出来たゆえに、聖女どもがオレのダンジョンに入ることを許さないわけにもいかぬ。
そもそもあの怪しげな草のせいで足腰も立たぬのだが、聖女がオレを喜んで運んでくれるのがから特に問題もない。
長い時をかけて我がダンジョンで繁殖し、世代を重ねてきたであろう魔物たちが、腐れ賢者たちに簡単に屠られてしまうのはやや不憫でもあったが、強い物が勝つという自然の掟だ、致し方あるまい。
このダンジョンは千年近くもの時間、外界と隔絶されてきた。強い敵と戦う機会すら与えられなかったのだ、力が落ちてしまうのはやむを得ない。簡単に散っていく命を眺め、憐憫にも似た思いを密かに噛み殺した。
しかし。
聖女よ、なぜお前は戦わぬのか。
腐れ賢者と聖女の供がなかなかに強いのはオレも認めよう。だが、たまには戦闘に参加しても良いのではないか?
ずうっと、ずうううううっと、オレを抱っこしたままなのだが!
アレだ、なんというか、アレだ。
自然現象というヤツだ。
見上げたら、にっこりと微笑まれた上に、何を勘違いしたのやらモフモフモフモフと撫でられた。
今は、お腹はやめて……!
やめろというに、ええいもう、その腕に漏らすぞ、浮かれ聖女め!
……という、危機的状況もなんとか乗り越え、いく日もの時をかけ、ついに我がダンジョンの最奥、オレの寝所の目の前までたどり着いてしまった。
オレのダンジョンを再度封印するにも、魔王の封印を解くにも、まずはオレの寝所にある魔方陣をなんとかしないといけないらしい。
それはわかる。
だが……。
オレは、ここにきて、いきなり沸き起こる野生の本能に翻弄されていた。




