獣王ハクエンは絶対に屈しない①
11月1日の書籍発行が近くなってきたので、恒例のSS連載をスタートします。
完全なる私の趣味で、今回はハクエンちゃん視点。
ご要望があれば他の視点もご用意しますよ(^^)
皆さま、楽しんで……ぜひ書籍のご購入検討をば!٩(^‿^)۶
くそう、手足に力が入らぬ……なんたる醜態。
獣王と呼ばれ恐れられたオレを、『マタタビっぽいの』などというワケの分からない植物で懐柔し体の自由を奪おうと企むなど、これまでの数多の敵でもそのようなあざといマネはしなかったものを。
聖女め、のほほんとした顔をしておるわりに、なんとえげつない手を使いおるのか。
悔しまぎれに手足をばたつかせても、力が抜けきった今の肢体ではいかほどのダメージも与えられぬ。
ついに聖女にやすやすと抱き上げられてしまった。
力を奪われる前のオレであれば、前脚の一閃で屠れるであろう柔な腕がオレを戒める。
細い指がやわやわとオレの喉を撫で、嬉しそうにほおずりされる。さらには腹まで撫でられるという屈辱にオレの我慢も限界だった。
「ぐ……おのれ……」
しかし、完全にあの怪しげな植物に骨抜きにされているこの身では、くぐもった呻き声に近い声しかでない。
それでも僅かに効果があったのか、聖女どもはオレを解放しやおらスコップを持ち直した。
もう意識が飛んでしまいそうだ。頼む、早く立ち去ってくれ……。
もはや懇願にも似た思いで念じる。情けないことに腹丸出しで体を弛緩させているオレを名残惜し気に見ていた聖女は、「あげる」と俺の腹にあの植物を投げ落とした。
ああああああ~~~、なぜそれを置いていくのだ……!
なんたる芳醇な香り……脳が、とろけてゆくようだ……。
聖女の指が、俺の喉をするすると撫でる。喉からゴロゴロゴロ……と音がした。もう何も考えられない。この心地よさに、意識を投げ出してしまいたい。
「もう……ダメだ……」
オレの中から抵抗の意思が消えた。何やら聖女とその供が騒いでいるが、もはやどうでも良い。蕩けるようなかぐわしさに身をゆだね、ゆるりと目を閉じる。
「バカ! 不用意に近づくな!」
怒鳴り声にハッと覚醒した。なんと、オレの住処である洞窟がポカンと口を開けているではないか。オレが自失してしまったがために、この洞窟を隠す幻術が切れてしまったらしい。
これはダメだ。さすがに、これだけはダメだ。動かぬ体で聖女の足に追いすがる。
「おの……れ……! 入らせて……なるものか……!」
必死で止めても聖女はどこ吹く風で、俺を再び抱き上げた。
「こら、触るなよ! そいつ絶対やべえって」
供の男に止められても、むしろ離すまいとぎゅっと抱き締めてくる。なぜにこの聖女は、こんなにもオレを猫っ可愛がりしてくるのか。
供の男がオレを指し獣王じゃないかと疑っても「まさか」と取り合わず、ひたすらにモフってくる。
こちらが心配になるくらい、警戒心の欠片もない……バカな聖女だ。




