私は帰る。大切な人と共に
「我は別に……だが貴様がどうしてもというなら貴様の言う日本とやらに渡ってやっても良いぞ。まぁここは退屈だからな」
出た、ツンデレ。でもそこが可愛いんだよね、ハクエンちゃんは。
「さっき魔王から漏れ出る魔力で少々力も得たからな。ほら、人化もできるし、困ったことがあれば我が助けてやらんでもない」
そう言って、ハクエンちゃんはクルリと宙返りして見せた。
そこに出現したのは。
「可愛い……!」
「? 可愛い……?」
怪訝な顔で自分の体を見下ろし、ハクエンちゃんは「なんだ、これは!」と声を荒げる。
そこには、五歳くらいにみえる、やんちゃそうな男の子が立っていた。
小麦色の肌は砂幻豹であるハクエンちゃんの茶色の毛皮を彷彿とさせるし、真っ赤な髪はたてがみを思い出させる。まんまるおっきな深紅の瞳も含めて、確かにハクエンちゃんが人化したらこうなるだろうって感じだ。
これはこれで、とっても可愛い。ただ、ハクエンちゃんは至極お気に召さないらしい。
「このようなナリでは話にならんではないか!」
あはは、顔を真っ赤にして、地団駄ふんで悔しがってる。きっと強くてカッコよかったっていう、大人の姿になれると思ってたんだろうなぁ。でもこればっかりは仕方ない。
「ありがとうハクエンちゃん、じゃあ、一緒に来てくれるかな。私、ペット可のアパートに引っ越すから、猫ちゃんの姿で癒してね」
「……だから、我は砂幻豹だというのに」
ぷくっとほっぺたを膨らませて、ハクエンちゃんは不機嫌な顔で人化を解いた。
「おーい、キッカ。ハクエンと遊んでないで、そろそろ行くぞ。準備がととのったようだ」
「はーい」
しっぽも耳もシュンとしちゃったハクエンちゃんを腕に抱いて、私はアルバの元へ駆け寄る。差し伸べてくれる手に、躊躇なくこの手を伸ばせることが、何より嬉しい。
「キッカ、これからもよろしくな」
「……!」
「大事にする」
掴んだ手を急に引っ張られて、気が付いたらアルバの腕の中にいた。
うわぁ、何これ! 何これ!? アルバってこんなことするタイプの人だっけ!?
今までにないアルバの態度に混乱して、私は真っ赤になるだけで、言葉を返す事すらできなかった。だって、だって。慣れてないんだよ、こんなのは……!
「見せつけないでちょうだい、私はまだ不安でいっぱいなのに」
不機嫌そうに片眉を上げるアイリーンさんと苦笑気味の賢者サマを見て、やっと体の緊張が解ける。
見上げたら、いたずらが成功した、みたいなアルバの顔。
呆気にとられた私の腕からハクエンちゃんを取り上げて、「お前はこっち」と自分の肩に乗せると、アルバは嬉しそうに微笑んだ。
な、なによ、もしかして私、からかわれたの? ムカつく! こっちはすっごく、ドキッとしたのに!
「痛ってぇ!」
腹立ちまぎれにアルバの足を思いっきり踏んだところで、私の視界はぐらりと揺れる。
ああ……ついに私、日本に帰れるんだ……。
不意に、その実感が押し寄せてきた。
死ぬかと思ったけど。
辛いことが多すぎて、泣きたい夜が何度も何度もあったけど。
帰れないって言われた時は、正直心が折れそうだったけど。
今なら心から思える。諦めないで、足掻けるだけ足掻いて、本当に良かった。
信じられない事ばっかりの世界で、初めて心から信頼できた人。一緒に生きていきたいと思わせてくれた人。
あなたに出会えて、こうして一緒に日本に帰れる音が、何よりも嬉しい……。
しっかりと抱き締めてくれるアルバの腕に身をゆだね、私はゆっくりと目を閉じた。
大切な人と共に、大切な故郷に帰るために。
これにて完結です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました! たくさん感想をいただけて、書いている間、とても幸せでした。
涙をのんで切ったエピソードがたくさんあるので、たまにサイドストーリーなどを更新できればな、と思っております。読みたいのがあれば感想欄にひとこと書いてくださいませ。
来月 11月1日
『帰れない聖女は絶対にあきらめない! 』異世界でムリヤリ結婚させられそうなので逃げ切ります
が、角川ビーンズ文庫さんで発売されます!
今回もサブタイトル含めめっちゃタイトル長いです……。
ここ半年ほど、仕事が本当に忙し過ぎて連載中の分の更新もままならなかったのですが、
その合間をぬってかなり頑張って加筆したり、割愛してたエピソードも入れ込んだりしています。
挿絵とか凄く凄く素敵だから、ぜひ手にとってくださいませ。
いつものように発売を記念して『発売前後更新祭り』を開催しようと思っています。
発売前後10日間くらいは小話を毎日更新しますので、よろしくお願いします!




