最後の仕事
「よし、これでヤボ用は終わりかな」
ふう、と息をついて、賢者サマがひとりごちる。私達は今、王城の一室で最後の仕事を終えたところだ。
「ありがとうございます……! 僕、なんとお礼を言ったらいいのか」
リーンのおっきな深緑色の目から、大粒の涙が次から次へとあふれ出す。賢者サマがリーンのお師匠様の魔力と生命力の枯渇を癒してくれて、私もこれで心置きなくこの世界とさよならできる。
リーン、良かったね。
最後に嬉しそうな顔を見ることができて嬉しいよ。この綺麗な目からこぼれる涙を見るのもこれで最後かと思うと、お姉さん、ちょっと寂しい。
「ま、キッカと約束したからねぇ。もう間もなく目を覚ますと思うけど、しばらくは動くのも億劫な筈だからいたわってあげてね」
「キッカさん……僕……っ」
もう涙でぐちゃぐちゃになった顔で、リーンは必死で何かを言おうとするけれど、それはもう言葉にならなかった。いいんだよリーン、お師匠様を、大事にしてあげてね。
私は微笑んで、リーンの若草色の髪をそっと撫でた。ふふ、髪の毛もぐちゃぐちゃだ。この髪を三つ編みにするの、好きだったよ。
「じゃあ、僕らはこれで失礼するよ」
「さっきも言ったけど、もう二度と、聖女召喚なんてしないでね。その必要はなくなるんだから」
「……善処する」
苦い顔の第二王子に、内心「だよねー」と相槌を打つ。ぶっちゃけあの王や神官たちが、第二王子のいう事なんて聞いてくれると思えないもの。でも、いいの。
「まぁ、やろうったってできないさ。魔王がこの世界からいなくなれば、魔力の元が薄れていく。土地の穢れもなくなるけど、そのうち魔法もつかえなくなるからねぇ」
そう、物理的にできないから、問題なしってヤツよ。第二王子の力なんてハナから当てにしちゃいない。
「じゃ、さよなら」
「キッカ!」
グレオスさんが。第二王子が。クルクル金髪巻き毛が。口々に名前を呼ぶけれど。
リーンが、瞳まで零れ落ちそうなくらいボロ泣きしているけれど。
本当は、私だって、笑ってさよならって言いたかったけど。
もう、振り返るつもりはない。
私は、私が帰るべき場所へ帰るんだから。……そう、大切な人と共に。
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「お、戻って来た」
「仕事が遅いぞ、腐れ賢者」
魔王城に戻ると、入り口の扉の前でアルバとハクエンちゃんが出迎えてくれた。
入ってすぐのエントランスで、床に描かれた大きく緻密な魔法陣の中にアイリーンさんが立っている。その傍には、不死王と龍王が、彼女を守るように付き従っている。
「彼らも行くの?」
「まぁ、再会した以上、彼らをアイリーンから引き離すのは難しいからね」
「ハクエンちゃんも?」




