私は、絶対にあきらめない
「どっちかしか選べないって言われたら?」
「私は絶対に日本に帰るし、その時はアルバも一緒だよ」
目の端で、アルバが小さくガッツポーズしてるのが見える。よっしゃ、勇気100倍!
「絶対にあきらめない、時間がもっとかかったとしても、一緒に帰れる方法を探すよ。見つかるまでね」
言ってやったぜ! ちょっと恥ずかしかったけど。
アルバも力強く頷いてくれたから、きっとその旅につきあってくれるだろう。
私達は、視線を交わして笑いあった。
「……ずるい、ずるいわよ、私だって一緒に行きたかった。……でも、ハヤトには故郷に恋人がいたんだもの」
「……それなんだけど」
ついにはらはらと涙が零れ落ちたアイリーンさんが可哀想で、私は勇気を出して疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「それって、ハヤトさんが言ったの?」
「え?」
「いや、だってハヤトさんとアイリーンさん、どう考えてもいい雰囲気だったじゃない。ちゃんとハヤトさんとそういう話、したのかなって」
「そんなこと……きける筈ないじゃない」
涙目で唇を噛んだアイリーンさんの姿に、賢者サマは深く頷いた。
「あー、やっぱりね。多分それ、誤解だよ。兄貴、彼女なんかいたためしがねーもん」
「嘘、嘘でしょう!? だって……神殿の皆が」
「だからぁ、それは君と兄貴が仲良くなったら困るヤツに騙されたんでしょ」
「そんな、酷い……! どこまで……!」
それを聞いた彼女の髪が、メデューサみたいにうねうねと巻き上がる。彼女を囲む透明の球体の中に、黒い靄が急激に増えていく。
「あー落ち着いて落ち着いて、バリアが壊れるから。だからねアイリーン、君も兄貴に会いに行けばいいと思うんだ、って話だよ」
「……え?」
黒い靄の浸食が、急にピタリと止まった。彼女の感情に呼応して増えるこの靄は、話から察するに瘴気なんだろうけど、この勢いで量産されるならやっぱり危険だよね……。
「兄貴、君の事ばかり話してたよ」
「ほ、本当?」
「ホント、ホント」
今度は球体の中でポポポポポッと小さな可愛い花が咲く。反対に黒い靄は花に押されるように小さく、淡くなっていく。
これが彼女の喜びの感情だとしたら、彼女は本当はとても可愛らしい人かも知れない。
「だから君と会えたら兄貴、すごく喜ぶと思うよ」
「本当に? 本当に喜ぶ……?」
「絶対! 君ならみんな纏めて転移できるでしょ。なんなら僕の魔力貸すしさ」
「できる……!」
「ただ、さすがの君も、残存魔力も少ない中でそんな大魔法を使えば、しばらくは魔法も使えないかもしれないよ? そもそも僕らの世界って魔法とかないし、こっちに帰ってくるのも難しいかも」
「ハヤトに会えるなら、魔法なんていらない!」
黒い靄を押しのける勢いでお花がどんどんと増殖していく。それを見て、賢者サマはこちらに軽く親指を立てて、ウインクして見せた。




