20話 王宮にて
前半はクリス
後半は国王 です。
彼がいなくなってしまってから半年が過ぎました。殆どの方はそれを気にしない、どころか忘れているのではないでしょうか?
彼の名前はカナデ=コトブキ。異世界からこの世界に召喚された召喚者です。そして数少ない私の友人。
彼は魔力や敏捷、魔法属性には恵まれていたけれど、他はどの召喚者と較べても大きく差があった。そしてそのことで彼は周囲から「役立たず」、そう呼ばれていました。
ですが彼は皆に少しでも早く追いつこうと努力していました。皆が夜の自由時間を楽しく過ごしている時に彼は1人訓練場で武術や魔法のの鍛錬をしていました。そして私も共に鍛錬する仲になりました。
しかし彼の周りは彼の成長よりも早く、やがて彼は暴力を受けることとなりました。周りの騎士達は止めようとしません。そのことに悔しさがこみ上げました。
やがて彼らはダンション『始まりの迷宮』に向かうこととなりました。私の気がかりは私の友人のカナデ様とミサキ様が無事に帰ってくるかということです。特にレベルの低いカナデ様は。幾ら初心者用のダンションとはいえ何が起こるかはわかりません。ですから無事を祈って待つことしかできません。
それから数日経ち皆さんが帰ってきました。しかし何処か様子がおかしいです。騎士の方の殆どは笑顔ですが、召喚された方は笑顔であったり、暗い表情であったり。何かあったのでしょうか?気にはなったものの、この後謁見の間で詳しい話を聞くことができるでしょうからその時は我慢しました。
謁見の間にてそれぞれの報告がありました。レベルや手応え、これからどうするかについてでした。しかし、私は奇妙に思えました。何度見ても私が心配していた彼、カナデ様がいないからです。それについて誰もが触れていないのです。
やがて全員の報告が終わりました。私はずっと気になっていたことを尋ねました。
「あの、カナデ様はどうされたのでしょうか?」
それに対してビクッと肩を震わせたり、涙を流したり、悔しそうにしていたり、ニヤニヤしていたりと様々でした。
そしてユウマ様が口を開きました。
「寿は、この世界のために『始まりの終わり』へ行きました」
「ッ! それはどういうことですか⁈」
ありえないと思い、信じることができませんでした。私はカナデ様に『始まりの終わり』について話し、そこへは行かぬよう気をつけて、と忠告したからです。その後は頭がグチャグチャで上手く考えられませんでした。
そしてそれからは気分が優れず部屋に篭ってしまいました。
夜になり、ある程度落ち着いたのでミサキ様にどういうことか尋ねるため、部屋を訪れました。ミサキ様から聞かされたことは信じ難いものでした。呼び出した本人であるお父様やアイア姉様を主導として『災禍の供物』としてカナデ様を陥れたなんて。
それからミサキ様は必ずカナデ様を救いに『始まりの終わり』へ行くと決め訓練や、モンスター討伐に励みました。私も可能な限り手助けしたいです。
しかし私にはあまり時間が残されていません。というのも私はアイア姉様と共に来年学園に通わなければならないからです。アイア姉様は本当は今年から入学の予定でしたが、召喚に立ち会いたいということで来年の入学になりました。
そのため、私もミサキ様を手伝うために今年中にあそこで戦えるくらい強くならないといけません。しかしもう半年が過ぎ、残り半年しかなく、焦ってきました。ミサキ様は無理はしなくていいとは言いますが、友人を助けたいのは私も同じ気持ちです。
そしてカナデ様の幼馴染みであったモモカ様やハヤト様、友人のナギサ様やナオ様、ダイスケ様方も後悔しており協力させてくれと仰っていました。
……正直彼らはあまり好きにはなれそうにないです。いくら自分が死にたくないとはいえそれは理解はできても納得できません。
そして今日も訓練かモンスター討伐に行こうと思っていましたが、私や騎士団長、召喚者の皆様が呼ばれました。
謁見の間につくとお父様やアイア姉様が既に居りました。
皆集まったと判断したお父様が口を開きました。
「『始まりの迷宮』が崩壊した」
……え?
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朝早くに騎士から報せとは何かと思ったが……、まさか『始まりの迷宮』が崩壊したとは。大臣や宮廷魔導師が一緒に『始まりの終わり』も崩壊したのでは?と言っておったが。もしそうならこれで『始まりの終わり』に『災禍の供物』を態々奴隷から探し出して送る仕事が無くなって良かったが……。騎士見習いや新米の騎士、冒険者が推定600人程とは。特に騎士が死んだのは手痛いのぅ。
それにこれから原因が何であるか調査もせねばなるまい。あぁ無駄なことに金がかかる。
それにこれから召喚者達の準備もせねば。学園へ行きたい者、冒険者となり国を回る者、城に残る者、様々じゃ。
あぁ、忙しい。




