大手柄
朝食を済ませた俺は周防と合流し、アポを取ってある会社に向かう。朝から食べた吉野家の並盛牛丼は美味しかったらしく、彼女は大いに満足そうだった。
受付で手続きを済ませ、応接室に通される。しばらくすると、恰幅の好い、五十代と思われる人が勢いよく入室してきた。彼は俺たちを見て、開口一番
「本当に来たんやね!」
と驚きの声を上げた。一体どういうことですかと話を聞いてみると、それは俺の想像を超えた内容だった。
確かに、彼女の大学の同級生はこの会社に勤めてはいたが、研修で来ていただけで、現在は東京本社に勤務しているらしい。むろん、会社としてはその旨を伝えたのだが、周防は粘った。一度、話を聞いてもらいたいと、言ったというのだ。
たまたま電話に出た方が、いま、俺たちの目の前にいる方で、営業課長をしておいでの平田さんだった。新人でそんな電話をかけてくる女性は珍しい、ということで、彼はあなたの上席を連れてくるのであれば、会いますよと返事をしたらしい。平田課長としては、社交辞令で言ったつもりであり、まさか、神戸から博多まで本当に上司を連れてくるとは思っておらず、電話で参りますと伝えられても、半信半疑だったらしい。
もちろん俺は謝った。平身低頭謝った。まことに、申し訳、ございませんでした、と言って深々と頭を下げた。当の周防は、自分に非はないと言わんばかりに涼しい顔をしていた。
とはいえ、せっかく時間を作ってもらった・時間を作った、ということで、ここはひとつ、何かの成果を作らねばならないと思うのが、サラリーマンの悲しい性で、俺たちは早速商談に入った。
結果を先に言うと、平田さんはとてもいい人だった。幸い、ウチの会社との共通点も見出すことができて、試しに取引をしてみましょうというところまで話が進んだ。気づけば俺たちは一時間以上話をしていたのだった。
「いや、いいお話ができました。これからも、よろしくお願いします」
平田さんはそう言って、笑顔で俺たちを見送ってくれた。
「……大手柄ですね」
駅に向かって歩いていると、不意に周防が話しかけてくる。俺は大きなため息をつきながら、
「別に、大手柄ってわけじゃない。普通だ」
普通だ、とは言ったが、心の中では、俺様よく頑張った。池端、お前はエライ、と呟いていたのはナイショの話だ。
「でも、よくやっていますよね」
「そうかなぁ」
「来年の春には、主任になれていますよね」
「うん? 何の話だ?」
「だって、私がアポイント入れたから、取引につながったじゃないですか。私、大手柄を立てましたよね。ということは、来年、主任には当然、なれますよね?」
「相手さんと喋ったのは、俺だろうが」
「でも、私がアポイント入れていなかったら、この商談もなかったですよね?」
……相手は完全に社交辞令で言ったんじゃないか。いわばマイナスからのスタートだったんだ。それを、プラスに持って行ったのは、俺だろうが。
と心の中で呟いたが、面倒くさくなってしまった俺は、人事のことは、俺にはわからないと返答するにとどめた。そんなに早く役職付くなら、世の中は、苦労しねぇよぉ……。




