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大分珍道中

その日、俺は新人・周防を伴って大分に出張に来ていた。


我が部署は、いわゆる会社での仕入れを担当している。仕入れ先は日本全国に及んでいて、数も多い。俺は定期的に仕入れ先を訪問して、価格の交渉や情報交換などを行っているのだ。今回は新人紹介ということもかねて、社で取引実績の高い企業に訪問することになっているのだ。


この日は大分市内で三件のアポが入っていて、客先にはレンタカーで向かうことになっていた。むろん、レンタカーの手配は周防に任せた。本人はドヤ顔でできましたと報告してきたが、それはほぼ、小春さんが指示したことは誰の目から見ても明らかだった。


大分駅に着くと、すぐに駅前のレンタカー屋に向かう。彼女はパンプスをカツカツと鳴らしながら、俺を先導している。見るからに自信満々で、一見すると、仕事ができそうな女性に見える。


彼女はレンタカー屋に着くと、テキパキと手続きを済ませていく。免許証を提出し、乗車する車の説明を受け、店員の話に的確に答えていく。彼女は書類を受け取り、振り返ると、自信満々に俺に口を開いた。


「じゃあ、いきましょうか」


「……周防、もしかして、お前さんが、運転するのかい?」


「……やります」


「え? できるのかい?」


「……できます」


そうかと言って、助手席に回る。確かコイツは千葉の出身だったはずだ。もしかすると、実家でそれなりに車に乗っていたのかもしれないが、あまり期待はしないでおこう。ただ、車の運転は性格が出やすい。ある意味で、彼女の人間性を把握することにつながるかもしれないなと考えていると、周防が運転席に乗ってきた。


座席を思いっきり前に出し、ハンドルと体がくっつきそうになっているが、まあ、よしとしよう。エンジンをかけ方がわからないようなので、このボタンを押すのだと教えてやる。まあ、よしとしよう。


ナビに訪問先の住所を入れると、彼女はおもむろに口を開く。


「……えっと、確か、Dが前で、Rが後ろだよね」


……大丈夫か、という言葉を飲み込む。俺の不安を知ってか知らずか、彼女はさらに言葉を続ける。


「どっちがアクセルだ? ……右?」


ペダルが太いほうがブレーキだよと教えてやる。


「お前さん、本当に大丈夫か? 自信ないんだったら、替わるぞ?」


「いいえ、大丈夫です。ちょっと久しぶりに運転するだけですから」


久しぶりって、いつ以来だよと心の中でツッコミを入れる。外では、レンタカーの職員が心配そうに俺たちの出発を見守っている。


周防はゆっくり息を吐きだすと、シフトレバーを動かしてアクセルを踏んだ。


恐ろしく遅い速度で、車はゆっくりと走り出した。しばらく走ると、車内に警報音が鳴り響く。


「なに、なによ、この音!」


「……サイドブレーキ引いたままなんじゃないの?」


「サイドブレーキ?」


「アクセルの左隣にペダルないか? それ、サイドブレーキじゃない?」


「ああ、そうですね。すみません、上司を乗せて緊張しています」


そう言って彼女はサイドブレーキを解除して、アクセルを踏んだ。


『三百メートル先、右折です』


ナビから声が聞こえる。車はゆっくりながらも、一応は流れに乗って進んでいる。


『ここを、右です』


確かにナビはそう言った。だが、車はそのまま直進してしまっている。


「おい、今のところ、右折だよ」


「……右折、無理です」


「無理って、お前さん……」


「右折無理ですよ、普通」


「……すぐ先にコンビにあるのわかるな? あそこで一旦止めよう。俺、運転替わるわ」


「え? 課長、車運転できるんですか?」


「上手くはないけれど、あなたよりは上手だと思うよ。毎日車で出勤しているしね」


俺は心の中で、まだ死にたくないんじゃい、と呟いた。周防は憮然とした表情を浮かべながら、コンビニの駐車場に車を止めた。



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