三流落語家
周防は博多から威風堂々とした様子で戻ってきた。いや、首の皮一枚で残っている状態であるには変わらないのだが、彼女はまるで百億の売り上げでもあげたかのような雰囲気を醸し出している。
周防に先様から電話があり、また来るといいと言っていたと伝える。彼女は大きく頷いた。
「ところで、先様は俺のしゃべり方にそっくりだと言っていたが、何をしたんだ?」
俺の質問に彼女は、カバンからスマホを取り出した。
「これで、課長のトークを録音して、練習しました」
よくやった、と褒めてやらねばならないのだろうが、それは俺のトーク内容を、エッセンスを真似ているわけではなく、しゃべり口調を真似ているに過ぎない。五十近いオッサンの喋り口調で二十代前半の女子が話をするというのは、違和感しか生まないだろう。言ってみればこれは出オチだ。一発目はウケるかもしれないが、そう何度も続くといい加減にしろとなるのは目に見えている。しかし、周防はこのやり方を続ける勢いだ。それは、どう考えても現実的ではないだろう。
俺はその音源を聞かせてくれと言ったが、彼女はそれは家のパソコンにありますと言って、やんわりと拒否してきた。さすがにこれ以上は踏み込めないと判断して俺は、また、次の機会にでも聞かせてくれと言って、彼女を自席に帰した。
昼休み。周防が食事に行ったタイミングで、部長に相談を持ち掛ける。彼は話を聞いて大爆笑していた。お前の喋り口調をマネするとは、なかなかだなと言って、褒めるでもなく貶すでもない様子を見せた。先様からは三流落語家みたいだと言われましたと言うと、彼はさらに爆笑した。
「三流落語家か。言いえて妙だな。わかる気がする」
「どういうことでしょうか」
「お世話になっておりますぅ~。このところ、お目にかかっておりませんから、足を運びました次第ですぅ~。いかがでございますか。いえいえ、こちらはもう、何にも変わりませんです……。みたいな喋り方をやったのだろう。大体、お前の電話を聞いていれば、相手先でどんな話し方をしているのかくらいはわかる。まあ、お前だからいいが、周防がそれをやるとなると、相当な違和感を覚えるな」
……俺はそんな胡散臭い喋り方をしているのか、とショックを覚える。営業に向いてないなとさえ思う。三流落語家とはうまいことを言ったもんだと、我ながらに納得してしまう。
「ただな、池端」
部長が言葉を続ける。俺は背筋を伸ばす。
「周防は相当の覚悟でやっているはずだ。あのコの性格上、人の喋り方を真似るというのは、絶対にやれないことだろう。それをやったということは、何とかしてこの仕事にしがみつこうとしている表れだ。その意気は買ってやれ。それと、お前の喋り方な、俺は、嫌いじゃないぞ。取引先もお前によく連絡してくるということは、それだけ愛嬌があって、喋りやすい人だと思われている証拠だ。落ち込む必要は、ない」
……俺は涙が出そうになった。




