周防のひとり立ち
結局、周防の福岡往復のチケットをミスった件は不問に付されることになり、俺も周防にも、帰りの航空券の代金が支払われた。これは、部長の差配であり、この人の心の広さによるものだ。俺は感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、彼は、まあ、そういうこともあるだろうの一言で終わらせてくれた。
ただ、周防に関しては、再び小春主任にすべての仕事をチェックしてもらう体制に逆戻りした。もう、入社して一年半経つ社員にすることではない。彼女の同期はすでに、一人で仕事を行っている。ちなみに俺は、入社半年で客先に一人で出された。優秀だったとか、期待されていたとか、そういうわけではない。単に人が足りなかったからだ。当時の課長に、
「いいか。新人だってぜってぇバレるんじゃねぇぞ」
と言われて送り出されたことを、今でも覚えている。バレるんじゃねぇぞ、と言われても、客には一瞬でバレた。アンタ、入社何年目? という質問に、まだ半年ですと小さな声で返事をしたのは、マジで恥ずかしかった。
ただ、それがよかった側面もある。入社半年の坊主をよく客先に出したねぇと呆れながらも、いろいろと教えてくれた人たちがいたのだ。俺が何とかこの業界でやっていけるのも、当時のオジサマたちのご指導のおかげと言って過言ではない。
では、周防にそれをさせるかと問われれば、答えはノーだ。それは、恐ろしい。どエライことになりそうな気しかしない。失敗をさせて教育するというのも立派な戦略だとは思うが、俺にそれを決断する度胸は、ない。
そんな俺の心中を察したのか、俺は部長から呼び出しを受けた。内容は、周防のことだ。部長は、そろそろ彼女に客を持たせてもいいのではないか、ひとり立ちをさせろと言う。俺は即答はできなかった。
部長の言わんとしていることはよくわかる。まさに、失敗させて学ばせろというものだ。そして、その責任を俺が取ってやれと言いたのだ。言っていることは、まさにその通りだ。俺は責任を取ることから知らず知らずに逃げていたのだ。
周防を呼び出す。何ですかとやって来た彼女に、そろそろ客を持ってみるかと提案してみる。彼女はスッと背筋を伸ばすと、真顔でこう言い放った。
「でしたら五社、私に担当させてください」




