十万円の使い道
意味がわからない。十万円って言った? 十万円って言ったよね。
予想もしていなかった内容に、少し混乱する。深呼吸をして心を落ち着ける。
「何で、十万円もの金を、お前に、貸さにゃ、ならんのだ。それよりも、立て。こんなところでウンコをするんじゃねぇ」
「なっ!? しないですよ! それ、セクハラだからね!」
「バカ野郎。公衆の面前で股ぁおっぴろげて座っているんじゃねぇ。立て。それよりも、十万円って、何だ」
「飛行機のチケットを買うんです」
「飛行機のチケットぉ?」
「明日、課長が帰るためのチケットです。今みたら、大阪行きは三万円なんです」
……ここで、お前はアホかと言ってもいいが、面白いので、少し泳がせることにする。
「うん。それで? あとの七万円は何に使うんだ?」
「私の航空券です。羽田行きで、一番安いのが、六万六千円でした」
「ははは」
思わず笑ってしまう。六万六千円って……ファーストクラスかと聞いてみたが、エコノミーなのだという。航空券って高いんだなと今更ながらに実感する。
そう聞くと、確かに十万円ほど必要ではある。ただし、彼女の考え方は根本的に間違っている。
「新幹線という選択肢は? 新幹線なら、新大阪まで一万五千円少しで行けますが」
「ああ、それでもいいんじゃないですか。課長さえよければ」
……なんでそんなに他人事なんだ、という言葉を飲み込む。ここは、冷静に話し合うことが必要な場面だ。
「前にも言ったが、これは、会社の経費だ。最も安価な金額を選択せねばならない」
「わかりました。じゃあ、課長は新幹線で帰ってください。でも、私は、飛行機で帰りたいです」
「お前さん、俺の話を聞いているか? これは、経費なんだよ。会社の金なんだよ」
「飛行機だったら一時間半くらいで羽田に行けるんです。新幹線だったら、五時間くらいかかっちゃいます」
「知らねぇよ。だったら、自分の金で帰るんだな」
「……お金、ないです」
「……なら、あきらめろ。それに、そんなことを言っている場合じゃないと思うけれどな」
「どういう意味ですか!」
「航空券、キャンセルできなかったんだろ? 明日、東京か千葉かは知らんが、お前さんが帰るチケットは、きっと、給料から天引きされてしまうぞ」
「何でそうなるんですか!」
「そりゃそうだろう。お前のミスで払い戻しができなかったんだ。帰りの電車賃は自分で出せと言われるに決まっているだろう。まあ、全額とは言わんまでも、博多~新神戸間の新幹線代金は会社から請求される可能性は高いぞ。しかも、俺の分も含めてな。そういう状況下の中で、飛行機で移動というのは、現実的ではないと思うが」
俺の説明に、周防の顔がどんどん紅潮してきた……。




