できない? ……そりゃ、できないよね
翌日、午前中の企業訪問を早めに切り上げて、俺たちは福岡空港に向かった。航空券の振り替えは、そんなに時間はかからないだろうと踏んでいた俺は、ここで何を食べるかを考えていた。値段は高いが、それでも、魅力的なメニューが並んでいる。そういえばここには吉野家もある。周防の昼食はここで決まりだな、などと考えていた。
その周防は早速、航空会社のカウンターに向かって小走りに走っていった。幸運にも誰も並んでいない。彼女はスマホを取り出して、スタッフの女性に何やら話しかけている。俺はぼんやりと明日の帰りのことを考えていた。おみやげ、何を買おうかな……。かすたどんはマストだ。ラーメンも買っていいかもしれない。明太子も欲しいな。ああ、でも、俺の鞄には入らないかもな。いや、ここから発送してもらえばいいのか。でも、高くつくな……。
そんなことを考えていると、周防の、もういいです! という声が響いた。一体何事かと見ると、彼女が憤怒の表情を浮かべながら俺の許に戻ってきた。
「キャンセル、できないですっ!」
はあ? どういうことだと俺。できねぇわけねぇだろうという俺に、周防はそれが無理なんですという。何じゃそれはと聞いてみるが、彼女は航空会社はキャンセルできないの一点張りで、話にならないという。挙句には、航空会社を相手取って裁判を起こしましょう、などと物騒なことまで口にしている。
埒が明かないので、周防を伴って航空会社のカウンターに向かう。一体どういうことですかと、あくまで紳士的に丁寧に質問する。スタッフの女性は、一切表情を変えることなく、口を開いた。
「先ほども説明申し上げましたけれど、キャンセルは致しかねます。と、申しますのも、こちらの航空券は往復割引が適応されています。こちらはキャンセルが不可の航空券となっております。まだ、ご搭乗前であれば承りますが、すでに伊丹からご搭乗いただいておりますので、キャンセルはできません」
「あー」
要は、往復で予約すれば少し安くしますよ、そのかわり、キャンセルはできないからね、というチケットであったらしい。だから、新幹線より安かったのかと一人合点する。伊丹から搭乗する前に気づいて手続きをすれば変更はできたようだが、すでに片道分のチケットを使ってしまったので、キャンセルできないというわけだ。これは、こちらのお姉さんの説明に筋が通っている。
「だってさ」
俺はそう言って周防に視線を向ける。彼女のこめかみがピクピクと動いている。俺は、スタッフの女性に丁寧に礼を言って、その場を離れた。
さて、明日のことを考えねばならない。どうするよと言おうとしたそのとき、周防がうわぁぁぁという絶望したかのような声を上げて、その場でウンコ座りをした。彼女は大きなため息をつくと、スッと俺に視線を向けた。
「課長、十万円、貸してください」




