部屋には来ないで
いい話ではない、と直感した。しかもそれは、相当にヤバイ失敗をやらかしている可能性が、極めて高い。
俺は一年間の彼女とのやり取りの中から、そう断じた。せっかく寝ようとしているのに、尻拭いをさせられるのかと暗鬱な気持ちになる。
ただ、俺の部屋で、というのはマズい。手を出す可能性はゼロだが、世間から見ればそうは見られないだろう。周防の持って行き方で、俺の人生は終わる可能性すらある。
わかった、と返事をして、一階のロビーで話を聞くと言って電話を切ろうとする、慌てた周防の声が聞こえた。
「ちがうんです。確認です」
「確認? 何だ」
「帰りは明日ではなくて、明後日ですよね」
「そうだよ。明日なわけないじゃないの。明後日も予定が入っているだろうが」
「……」
「何だよ」
「帰りの航空券、明日のを予約しちゃいました」
「うん? 何て? もう一回」
「航空券を、明日に、予約しちゃったのです!」
お前さんはそこそこ、というより、かなりいい大学を出ているんだろうという言葉を飲み込む。まあ、それだけ焦っているということだろう。
「しゃーねーだろう。明日の便をキャンセルして、明後日に振り返るしかないだろう」
「そうしたいのはやまやまなんですが、ネットでキャンセルができないんですよね」
「はあ? できないことはないだろう」
「できないんですっ!」
周防は電話の奥で金切り声を上げた。ああうるせぇなと思うと同時に、隣の部屋の人は、さぞ、迷惑をしているだろう。俺の部屋で話をしなかった自分の決断力を褒めてみる。手は出さないが、別の意味で、手が出る可能性がある。
「明日、空港で直接キャンセルの手続きをしたいので、途中で寄って欲しいのです」
「え~面倒くせぇ」
「面倒くさいってなんですか! そうしないと、課長だって神戸に帰れないでしょ! 帰りたくないんですか? このまま福岡にいるつもりですか?」
……小学生かよ。こういう手合いは無視するに限るが、帰れないのはこちらとしても痛い。しかたがないと、ため息を一つつく。
「じゃあ、昼食は福岡空港で摂ることにして、そのときに、キャンセルの手続きをしろ」
「わかりました。それでは」
そう言って、周防は電話を切った。




