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都合、六度

だから言わんこっちゃねぇんだ。一体どれだけ待たせる気だよ。


俺は心の中で怒っていた。当の周防は、手洗いに行ったままだ。


手洗いくらい行かせてやれよ、と思うかもしれない。いや、でも、待ってくれ。周防が手洗いに行くのは、これで、六度目だ。大事なことなのでもう一度言う。手洗い、六度目なのです。


最初の訪問先から出ようとしたとき、周防はお手洗いに行きたいと言った。彼女はそのまま踵を返して、ビルの中にある手洗いに駆け込んだ。しばらくすると出てきたので、大丈夫かと声をかける。彼女は大丈夫ですと返答する。


どこにでもありそうな会話だと思うだろう? 俺もそのときは、そう思っていたんだ。だが、テキは俺の想像のはるか上をいっていた。まさかそこから怒涛のトイレラッシュになろうとは、想像もつかなかった。


次の訪問先は、駅の近くにある。つまりは、登ってきた坂道を下っていく行程となる。テクテクと歩いていると、ちょっと大きめのホテルが見えた。周防は手洗いに行ってきますと言って、そのホテルに駆け込んだ。


ロビーで待つこと数分。周防が出てきた。だが、彼女は俺の顔を見ると、何か考える様子を見せ、すぐに引き返してしまった。再び待つこと数分。周防はいそいそと出てきて、次の会社に向かいましょうと言ってホテルを後にする。


すみません、の言葉もなく、ただ無言で歩く。しばらく歩くと、商店街に出くわした。結構いろんなものが売っていて、美味しそうなチーズケーキなども売っている。帰りに買って帰ろうかな、などと思いながら歩いていると、大きなビジネスホテルが目に入った。


「課長、すみません」


気が付けば周防はそのホテルに向かって走っていた。先様との打ち合わせの時間は、十分前に迫っている。


再び手洗いのすぐ近くでヤツを待つ。しばらくすると、腹をさすりながら出てきた。俺の顔を見ると、再び踵を返して、戻っていく。ちょっと待てよ、オイ、と言おうとしたときには、もう周防の姿はなかった。


時計を見ると、約束の時間になろうとしていた。これはいけない。先様に連絡を入れなければ。そのとき、俺の携帯が鳴った。知らない電話番号からだった。


「……池端さまの携帯でよろしいでしょうか」


「左様です」


「私、株式会社〇〇のオクノの申しますけれども」


「はい。お世話になっております。あの……」


「池端さま、もう、弊社にお着きでしょうか」


「いいえ。これから伺うところでございます」


「そうですか。誠にすみませんが、私の帰りが遅くなっていまして、十分ほど、遅れるのです」


「ああ、大丈夫です。私どもも、それに合わせて参りますので」


担当のオクノさまは恐縮しきりだった。一方で俺は、何てツイているんだと、拳を握り締めていた。


気が付くと周防が帰ってきていた。俺が口を開こうとしたその瞬間、彼女は首をかしげると、再び手洗いに向かって小走りに走っていった……。

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