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郡山一社目

やっぱり寒いな。郡山駅を出たとき、最初にそう感じた。何より風が強い。この強い風が体感温度を下げているのかもしれない。やはり、上に羽織るものを持ってきて正解だった。


初めて訪れた福島県郡山市は、こう言っては失礼だが、思った以上に開けた街だった。駅前のロータリーにはビルが立ち並び、車が行き交っている。


「おーなんか、いいねぇ」


思わずそんな言葉が口をついて出た。できれば、仕事などを忘れて一週間くらい滞在して、この街を開拓してみたいものだ。


ふと隣の周防に視線を向けると、顔がゆがんでしまっている。そんなツラぁするんじゃないよと言うと、彼女から帰ってきた答えは、「寒い」の一言だった。


「そりゃ、見るからに寒そうだな。どこかユニクロでも探して、あったかいジャケットか何かを買った方がいいんじゃないか」


「お金、ないです」


「ないことぁないだろう。いま、財布の中にいくらあるんだ」


「……二千円」


「マジか」


二千円じゃジャケットは買えないわな、という言葉を飲み込む。聞けば、入社以来、給料は生活費に消えていき、貯金なんざ、一銭もないのだと言う。まあ、確かに俺も貯金ゼロ、というのは長かった。じゃあ、いま、貯金はあるかと聞かれれば、ないのだが。


周防はこの寒空の中、このまま客先に行くのだと言う。社内は温かいでしょと澄ましていたが、いや、そこに行くまでが寒いですやん、と心の中で突っ込んでみたが、彼女の決断を尊重して、何も言わないことにする。やっぱり寒いので、課長、一万円貸してもらえないですかとお願いされたら、貸さないものでもないこともないこともなかったのに。


じゃあ、行くかと言って歩き出す。駅前はかなり大きな商店街のようになっていて、緩やかな上り坂が続く。そこを上がりきったところに、一つ目の訪問先はあった。担当者は周防の様子を見るなり、その格好で来られたんですか。寒くなかったですかと言い、少し驚いていた。


「いいえ、大丈夫です」


精一杯の愛想笑いを浮かべながら彼女は応対する。担当者は周防の父上とは直接のつながりはなかった。話を聞いてみると、この会社の社長が、もともとは周防の父上がいる会社に所属していて、上司・部下の間柄だったのだそうだ。その社長からの命令で、彼は俺たちとの間に立ってくれているので、これはご苦労様というほかはない。しばらくすると社長が現れた。ロマンスグレーの、素敵なおじ様だった。彼は周防を見るなり、お父様にはお世話になっていますと言って、笑顔を見せた。


終始和やかなムードで話は進んだ。周防はいつも以上に大人しく、余計な一言もなかった。いつもの彼女なら、父は~などといらない話の一つでもやらかしそうだが、俺たちの話にただ、頷くだけだった。


意外にわが社との共通点も多く見出すことができ、少し仕入れ値も抑えられそうな手ごたえを感じつつ、話を終えることができた。俺としては、まあ、よかったんじゃないかと思える出来栄えだ。


少し時間が押しているので、次の訪問先に向かうことにする。そのとき、周防が俺を呼び止めた。


「課長」


「なんだ」


「スミマセン、お手洗いに、行ってきます……」

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