郡山へ
四月も後半に差し掛かり、ずいぶん暖かくなった。すでにコートの類は脱ぎ捨て、ジャケット一枚で十分、いや、下手をするとそのジャケットすらもいらないくらいの陽気になっていた。だが、俺の心は晴れない。
部長に恐る恐る、どうやって本社の連中を説得したのですかときいてみる。すると、
「仕入れ先が増えるんだったら、御の字じゃねぇかといってやったんだ」
……それで本社の連中、わかりましたと言いますか? それだったら、ウチの若い者を生かせれば住むでしょうとなりませんかね。そんなことを考えていると、部長はさらに言葉をつづけた。
「お前ら本社のものが行くより、数段安く仕入れられるよう交渉しに行く、と言ってやったんだ」
……メチャクチャハードルが上がっている。マジで、ここは成果を出さねば、サラリーマンとしての俺の人生そのものが終わる可能性すらある。俺は出発までの日数で訪問先の企業をできるだけつぶさに調べた。当の周防は、いつもの表情のままだ。きっと、何も考えていないだろうし、実際、何も考えていないだろう。
そんなこんなで、すぐにその日はやって来た。新神戸発八時の新幹線に乗り込み、東京で乗り換えて郡山に向かう。そのために、集合時間は、駅に七時四十五分とした。
郡山に向かうに際して俺は、薄手のコートを用意していた。さすがに、駅ではそんなものを手にしている人は俺以外では見当たらないが、天気予報で調べたら、当日の郡山は最高気温十三度、最低気温六度となっていたからだ。関西の十三度と東北の十三度は体感的にも違うだろう。もし、思った以上に温かければ、コインロッカーなどに入れておけば済むことなのだ。
周囲の好奇の視線を感じないではないが、それでも周防を待っていたら、彼女は薄いジャケット一枚を羽織ってやって来た。お前さん、その格好で郡山は、寒くないかいと心配する俺に、彼女は、何を言っているんですかと言って歯牙にもかけなかった。まあ、それならそれでいいと、新幹線に乗り込む。
車窓に移る景色を眺めながら、訪問先の情報を頭の中で反芻する。そして、相手との交渉をシミュレーションする。ふと、隣を見ると、周防はすでに寝ていた。なんでこんな状況下の中、スヤスヤと眠れるのかが不思議で仕方がなかったが、起こしたところでどうにもなるわけでもないので、俺はそのままにしておいた。
東京での乗り換えも順調にすみ、東北新幹線は一路、郡山に向かって走っている……。




