松山珍道中
十二月は、俺にとって一年で最も忙しい月となる。
俺が所属する部署は仕入れ担当で、全国各地に取引先があることは先に述べた。十二月は、その取引先のあいさつ回りのために、全国を飛び回るのだ。係長の尾関と担当エリアを分け、互いに旅に出る。この一か月は、ほとんど彼と顔を合わせる機会がないほどだ。
問題の周防だが、俺と帯同することになった。尾関が、アイツだけは嫌です、勘弁してくださいと泣きついたのだ。そこまで嫌わなくていいのにとは思ったが、基本的に人当たりのいいこの男が、そこまで言うのは珍しいために、俺との帯同ということになったのだった。
その日は一日東京であいさつ回りを行い、一泊して翌日に帰社というスケジュールだったが、急遽、翌日朝から愛媛県松山市の取引先に訪問しなければならなくなった。幸運にもホテルが取れたのだ。夜は実家に帰れると踏んでいた周防はプリプリと怒っていたが、これは仕事だ。そうも言っていられない。急遽のことであるために、チケットの手配を周防に任せることにする。
「最短で、松山に着くよう手配します」
彼女は自信満々でそう答えた。最短もへったくれも、東京から松山まで移動するとなると、飛行機一択だ。よもや間違いなどあるはずもないだろうと思いつつ、愛媛県松山市だぞと念押しをする。
周防と羽田空港で待ち合わせをすることにして、俺は別の取引先へ。訪問を終えて羽田に到着してみると、どうやら飛行機が遅延しているらしい。まあ、夕方のフライトではよくあることだ。仕方がないなと思いながら、周防と合流する。
「遅延なんてありえないですよ!」
彼女は怒りを隠そうともしない。そう言うても、しゃーないやんけ、と彼女を宥める。とりあえず、飛行機のチケットをくれと言うと、カバンから取り出して俺に差し出す。
大阪 伊丹
いたみ? 伊丹? オイ、バカヤロウ。松山に行くって言ったじゃないか。何だこれは、家に帰るんじゃないぞという俺を周防は手で制した。
「落ち着いてください、課長。続きがあります」
「続きぃ?」
「伊丹で、松山行きに、乗り換えます」
「はあ?」
「そうした方が、羽田から直接松山に飛ぶより、十分早く到着します」
「……周防」
「何ですか?」
「到着が二十一時過ぎなんだろ? その時間に十分遅れたくらいで、何があるんだ?」
「課長が一番早くいく方法でチケット取れって言ったんじゃないですかぁ! 忘れたんですか!?」
……ここは空港です。静かにしましょう。ほら、外国の子供さんが、驚いているじゃありませんか。
「直通便の方が、時間があるから、空港で夕食を摂っていけると思ったけれど、これじゃ、食事をする時間がないな。残念だ」
俺の言葉に、周防は悔しそうな表情を浮かべた。
チケットを取ってしまったものは仕方がない、と渋々伊丹行きの飛行機に乗る。すでに三十分遅延している。ちなみに、伊丹での乗り換え時間は約三十分だ。下手をすれば、俺たちは松山行きに乗れない可能性がある。
……その場合は、朝一番の飛行機で向かうしかないな。
俺は心の中でそう呟いた。松山への直通便を取っていれば、こんな心配をすることもあるまいに、とは思ったが、俺は何も言わずにおいた。そんな俺たちを乗せて、飛行機はゆっくりと動き出した……。




