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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~ 【書籍化決定!】  作者: 相有 枝緖
第三章

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第50話 「よし、仕事だ」

修理業者の人は、道すがら現状を教えてくれた。


「魔道具の金網は壊れてないってお墨付きをもらっているんだ。領主様が王都から魔道具鑑定師を呼んでくださって、確認したから間違いない」

自信を持ってそう言い切った彼は、しかしどこか疲れた表情であった。


「それなのに、スライムが出てきているんですね」

「そうなんだよ。最初は石の隙間から出てきているのかとも思ったんだが、目地はきちんと詰まっているし、欠けたところもないし……」

ため息を吐いた彼とカイは、指定された水路の門までやってきた。


「そういうわけで、頼むよ。俺たちはあっちの通りの下水路を確認しているから、何かあれば聞きに来てくれ」

本当なら手伝ってくれる人もいる予定だったのだが、修理作業中にケガをしたらしく、人手が足りないという。

カイのスキルなら別段問題はないので、むしろ一人にしてもらった。


「わかりました」

「鍵は持ってるな?仕事が終わったらギルドに預けて、明日はまたギルドに取りに行ってくれ。報告もギルドだ」


冒険者ギルドが、窓口をすべて担ってくれるということらしい。

「はい」


終わりの見えない作業に疲れた業者の人を見送っていると、その向こうの道に見たことのない人がいた。


もちろん、ツーレツト町に知り合いはいない。

だがそういう意味ではなく、初めて見た人種だった。


「……エルフ」


その人は、町の人たちの視線を独り占めしていた。


白い肌に特徴的な尖った耳、プラチナ色のロングヘアをさらりと流し、輝くような緑色の瞳でまっすぐ前を見ている。

服装も独特で、多分エルフの民族衣装なのだろう。


通りの向こうを歩く彼女は、周りの目線などものともせずにゆったりと歩いていた。


エルフの女性をぼんやりと見送ってしばらくすると、町の喧騒が戻ってきた。

どうやら、皆うっかり彼女に見惚れて色々と停止していたらしい。


「エルフはほとんどエルフの里から出ないって聞いたけど。エルフをこの目で見たって、もしかしたら、孫に語って聞かせられるネタかもしれない」

ほう、とため息を吐いたカイは、子どもどころか彼女もいない現状から目を逸らして下水路の門を見た。


「よし、仕事だ」




ヴィーグ村の下水路の門と同じく、ここの門も閉じると自動的に鍵がかかる仕組みになっていた。

この町の場合は、人が迷い込まないことよりも防犯面の方が強いだろう。


ヴィーグ村の下水路よりも綺麗に整えられていて、幅も広い。

綺麗になった水が向かう先は海に流れ込む川である。


奥へと歩いて行くと、似たような壁が目に入った。


「ん?あれか……」

カイの目の前には、水路の端の方に固まったスライムがいた。


「小さいのばかりなんだな」

袋を取り出したカイは、軽く周りを見回した。


ランプに照らされた壁面は、確かに年月は感じるものの、穴などは見当たらない。

スライムはほんの少しの隙間でも通れるらしいので、パッと見てわからない程度の穴があるのかもしれない。


「さてと。まずは君たちの移動だな」

袋を持ったカイが近づくと、スライムたちはこちらを観察するようにふよふよと体を揺らした。


ゆっくりと袋をかぶせてみたが、全く抵抗しない。

そのまま袋で包み込んで持ち上げても、嫌がるそぶりはなかった。


「随分、人懐っこいスライムだな。都会のスライムってこんな感じなのか?」

ヴィーグ村のスライムたちは、カイが水路を覗き込むとゆるりと避けるような動きをしていた。

対してこのスライムたちは、されるがままなのだ。


一応確認したが、ほかにスライムは見当たらない。

だからカイは、壁の端にあるドアに向かい、階段を上ってから鍵を開けた。


「一応予備の袋は三つあるけど……。って、いない?」

フィルターとなる壁に挟まれた小部屋には、ただ水が流れるだけであった。



ツーレツト町のフィルターはヴィーグ村のものよりも厳重で、壁が三重になっており、中間の小部屋は二つあった。

しかし、その小部屋のいずれにも、スライムはいなかったのだ。


三つ目の扉を開くと、ヴィーグ村で見たのと似たような水槽が五つ連なっていた。

少しずつ段になった水槽には、スライムが揺蕩いながらゴミを食べていた。

規模は違うが、臭いは村と同じだ。


「なんでだろう。逃げたにしても、まったくこの中にいないのはおかしい」

カイは、袋をひっくり返してスライムを水槽に入れながら首をひねった。


「ん?あのスライムたち……」

カイが捕まえたスライムは、先にいたスライムたちよりも小さいだけでなく、色も違った。


わずかな違いではあるが、下水のスライムたちがグレーでほぼ同じ色なのに対し、小さいスライムは緑やピンクなど、ほんのりと色づいていたのである。


じっと見下ろした視線の先で、水路に落ちたばかりのスライムたちがゴミを食べ始めた。

「外に出て変化したのかな。それも何か関係がある?」


謎が謎を呼んでさっぱりわからない。

情報がなさすぎるのである。


「まずは、調査だな」

カイは、水槽から一つ目の壁を見た。


「『故障品再生』」

スキルを起動すると、ヴィーグ村のフィルターと似たような構造であることがわかった。


「こっちの方がもう少し作りが細かい。……でも、ひび割れとか隙間はない」

立体映像を拡大して注意深く観察しても、穴のような大きな故障がないのである。


「おかしいな。壁じゃないのかな……。もう少し範囲を広げるか」

カイは、一度スキルを切ってからもう一度起動させた。

今度は仕切りとなっている壁を中心として、床や天井、水路の壁も含んだ少し大きな範囲を見ることにした。


「あ、すごい。この水路、もう三百年も使われてるんだ」

フィルターとなる壁は作り直されているが、水路の壁や床などの一部はとても古いとわかった。


そしてゆっくりと時間をかけて隅々まで見たのである。


「えー……?どこにも穴とか隙間とかないんだけど」

壁と床の隙間や、壁面の接着面など、怪しいところはくまなく確認したつもりである。


しかし、カイのスキルは明確な修理箇所を見つけ出すことができなかった。




じっくりと一つ目の壁周辺を見てもわからないまま、次の日もまたカイはツーレツト町へやってきた。


昨日と同じ水路の門を開けて入ったところで、ぴたりと足を止めた。

「また、いる」


奥の壁に引っ付くように、小さなスライムが一匹。

一応持って来た袋で捕まえたが、やはりスライムは全く抵抗しなかった。




ほかの壁もスキルで隅々まで確認し、その周辺にも調査範囲を広げてみたものの、結局まったくわからなかった。


日が傾く中、カイは重い足取りでギルドへ向かっていた。


「確かに小さなひび割れはあったけど、表面だけだったんだよなぁ」

はぁ、とため息を吐いたカイは、ギルドの扉をくぐった。



「今日は、一匹だけ一番外側のところにいました」

「そうか、やはり出てきているのは間違いなさそうだな」

執務室で報告を聞いたドミニクは、メモを取ってうなずいた。


「少し気になるのは、やけに人懐っこいというか逃げないところと、フィルターの壁と壁の間にはいないことくらいですね」

ぽつりとカイが言うと、ドミニクは顔を上げた。

「どういうことだ?」


「その、水路にいるスライムは、上から覗いただけで少し逃げるというか、離れるんです。でも、表にいたスライムは袋をかぶせようとしてもじっとしていたので」

カイは、手振りを加えながら説明した。

「それで人懐っこい、か。確かに、妙だな。壁と壁の間というのは?」


「フィルターの壁は、三枚ありますよね」

「ああ、ツーレツト町ではそれが標準だ」


カイは、手を前に立てて壁に見立てた。

「その壁と壁の間には、スライムがいなかったんです。水槽から抜けてくるならここにもいそうなものなんですが」


すると、ドミニクは手を前にあげた。

ストップのジェスチャーだ。

「ちょっと待て。それは、昨日もか?」


「はい、そうです」

カイがうなずくと、ドミニクは顔を左右に振った。


「俺たちは勘違いしているかもしれん。業者の方にも確認するから、明日こっちに来たら、まずこの部屋に来てくれ」

「え、あ。もしかして……」


言いかけたカイは、ドミニクにじろりと見られて口をつぐんだ。

「まだ確定じゃない。めったなことを口にするなよ」

「わかりました」


中から出たというのが勘違いなら、外から持ち込まれた以外に答えはない。


夕日が差し込む室内は、なんとなくひんやりとして感じた。

2026/2/2 場面転換がわかりにくかったので、追記しました。

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状況がよくわかない。 スライムがいないのに、そこに袋からスライムを放した時に先にいたスライムと色を比較できるというのはどういうことだろう? 水路にいるスライムが逃げるというのも、水路のスライムは逃げな…
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