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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

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第37話 「羽か」

昼休憩も挟んで作業を続け、そろそろ帰ろうという頃に、ライナーとフィーネが戻ってきた。


「お、かなり進んだな」

「ライナー、フィーネ。無事だったか」

エーミールが振り返ってそう言うと、二人はうなずいた。


「ウチもライナーもなんともなかったよ。んで、成果もほとんどなかった」

そう言ったフィーネは、肩をすくめた。


「何もなかったのか?」

アウレリアが聞くと、ライナーが眉を寄せた。


「まったく何も、ってわけじゃないんだが……。妙な気配はあった。それと、これを見つけた」

腰のポーチからライナーが取り出したものは、白と茶色のまだら模様の羽であった。


大きさは、肘から指先くらいまで。

かなり大きな鳥の羽のようだ。


「羽か」

「ああ。だが、これだけじゃ何かわからん。モタルドイーグルの羽にも見えるが、グレイオウルの尾羽も似たような模様だ」


モタルドイーグルとは、白と茶色のまだら模様の鷲の魔物だ。

グレイオウルは灰色っぽい模様のあるフクロウの魔物で、どちらも羽を広げると二メートルを超える。


モタルドイーグルもグレイオウルも、普段はあまり人里には近づかないが、非常に攻撃的らしい。


「だが、あいつらがいたところでブラックウォルフが逃げるはずもないしな」

「縄張り争いはあるだろうが、逃げはしないな」


森の動物を取り合うので、ライバルではあるらしい。


「とりあえず、持ち帰って報告だ」

「ああ」


ふと、森の奥の方から冷たい何かを感じて、カイは思わず振り返った。


「カイ、行くぞ」

「はい!」


その嫌な予感を振り払うように、カイは踵を返した。




村に帰ってくると、ちょうど日が暮れてきた。


「これ、何の魔物だろうな」

拾った羽を見ながらライナーがぽつりと言うと、アウレリアが肩をすくめた。

「はっきりとはわからんが、どちらにしても空から攻撃してくるタイプだ。相応の対策を考えないと」


「そうだな」

ライナーが眉を寄せ、フィーネとエーミールはちらりと空を見上げた。


そして、カイがバンガードの四人と一緒にデニスが待つ役場へと報告に向かおうとしたところへ、誰かが走ってきた。

村の人ではない。


「た、助けてくれ!!何かに襲われて、馬車がっ!」

ライナーが一歩前に出て、倒れそうになった男性を支えた。

カイより少し年下に見える。


「大丈夫か?ほかの人は?けが人はいるか?」

ライナーが聞くと、肩で息をしている男性は首を左右に振った。

「けがは、誰も、ない。たぶん。残りは、箱馬車で、こっちに来てる。やられたのは、塩を運んでいた、幌馬車だ」


どうやら、荷馬車の方が被害に遭ったらしい。

男性は、先んじて走って知らせに来たのだろう。


「どのあたりでやられた?」

「ツーレツトから、街道を南下して、半日も行っていない。次の休憩所とちょうど半分より、少しこちら側だ」

ちらりと振り向いた男性の視線の先には、まだ馬車はない。


随分と急いで走ってきたようだ。


「それなら、戻ってきて正解だ。しかし被害が幌馬車だけか……妙だな」

ライナーが言うと、エーミールも同意した。

「盗賊なら箱馬車も同時に狙うだろうからな」


すると、男性もこくこくと首を縦に動かした。

「貴重品は、箱馬車にありました。被害は、幌馬車と塩だけです。それに、一度襲われた後は、慌ててこちらに引き返す間もなにもされていません」


「魔物にしてもおかしいな。人が襲われていないということか」

アウレリアは拳を口に当てて言った。


「誰も何も見なかったの?」

フィーネが男性に聞いた。


「幌馬車は一番後ろだったんです。後ろから襲われたらしくて、幌馬車の御者も突然衝撃があった、と。馬車が切り裂かれて壊れただけで、御者は無事でした」

「切り裂かれていた……?」

男性の言葉を聞いたライナーは、目を細めて腕を組んだ。


「何かわかりそうか?」

アウレリアが聞くと、ライナーは首をひねった。

「いや。切り裂かれた部分を見ないと何とも言えない。……まずは、村長の所だな」


「ウチ、先に行って話してくるよ」

フィーネが役場の方へと走っていった。

「頼む」


とりあえず、男性を近くのベンチに座らせた。

走ってきたので疲れた以外に異常はないと言うので、カイたちも役場へ行くことにした。


途中で、役人の女性と行きあった。

「こちらに逃げてきた方は?」

「あっちの広場の向こう側で、ベンチに座っています」


カイが答えると、女性はぺこりと頭を下げた。

「助かります!」


女性は鍵束を持っていたので、空き家のどれかを宿として貸すつもりだろう。

今からでは、ツーレツト町に向かうのも厳しい。



役場に着くと、すぐに村長のデニスの所へ通された。

「森での対処はうまく進んでいるようですが、誰かが助けを求めに来たんですか?」


「ああ。腰に店員用の商業ギルド証を下げていたな。おれたちが話したのは一人だが、後から何人か来るらしい」

「なるほど。ツーレツトから王都方面へ向かう商人ですな」

ライナーが答え、デニスが納得したように机に置いた地図をなぞった。


カイは、商業ギルド証には気付かなかった。

さすがの観察眼だ。


「けが人はいないらしいと聞きましたが、間違いありませんか?」

デニスは、広げていた地図を丸めながら聞いた。


「あの男はそう言っていた。少なくとも、大けがはしていないんだろう」

「わかりました。ありがとうございます。この後のことは、我々が引き受けます」

デニスが軽く頭を下げると、ライナーたちは顔を見合わせてうなずいた。


「それで、馬車を襲った何かのことだが」

ライナーが少し身を乗り出して言った。

「はい。盗賊ではなさそうですね」

フィーネからある程度聞いたのだろう、考えるようにしてデニスが答えた。


「多分、魔物だと思う。ただ、それが何かわからないんだ。今日は魔物のいる森で、この羽を見つけた。この持ち主が襲った魔物かもしれないから、明日はまず馬車の様子を見たい」

ライナーは懐から大きな羽を取り出し、デニスに見えるよう机の上に置いた。


「これは……。モタルドイーグルかグレイオウルですか?ブルーホーク……にしては羽が大きすぎますし、色味も違いますかね」

まじまじと羽を見たデニスは、そっと手に取ってくるりと裏返した。


「特徴があまりなくて、判断が難しい。攻撃された馬車を見れば、何かわかるかもしれない」

ライナーは、その羽を睨むようにして見ながら言った。


「わかりました。では、それも追加の依頼として挙げておきましょう」

デニスは、机のメモに何かを書き込んだ。


「多分魔物のいる森と関係するから、領主付けにしておいてほしい」

アウレリアが言うと、デニスはしっかりとメモを取った。

「かしこまりました」




「それじゃあ、また明日」

「はい!明日もよろしくお願いします」

アウレリアたちに手を振ったカイは、夕食の買い物をして帰ろうと、商店の方へ向かった。


すると、店の前に人が集まっていた。


「あの人は見たことがないな……。あ、逃げてきた人たちか」

見たことのない人が混ざっているので、多分間違いないだろう。


近づいていくと、商店の向こう側に停めたらしい箱馬車も見えてきた。


「あ、カイ!いらっしゃい!買い物?」

店の中をぱたぱたと動き回っているヒルダが、カイを見つけて声をかけてきた。

忙しいからか、耳があちこち向いて動いている。


「うん。忙しそうだな」

見知らぬ人のほかに、村の人たちも同じような時間に店に来たらしい。


というよりは、予定外の訪問者を見に来たというところだろうか。

村の人たちにとって、冒険者以外の客人は珍しいのだろう。


なんとなく、村の人たちがそわそわしている気がする。

それを見たカイは、自分もどこかふわふわした感情を抱えていることに気がついた。

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馬を襲う鳥・・・、もうあれしか思い浮かばんのだがさて。
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