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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

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第26話 「ねえ修理屋さん、今日は何してるの?」

次の日には柵の修理を終えて、さらに次の日には共有井戸も調整した。

共有井戸は、故障というほどのこともなかったので、摩耗している部品を交換した程度だ。

少しずつではあるが、村の役に立つ仕事なので達成感がある。


そして、数人の村人がエーミールとフィーネの付き添いで森へ向かった。


カイの家の薪はたっぷり備蓄してあるが、そろそろ足りなくなりそうな家がちらほら出てきたらしい。

そのため、何度か往復して持って帰ってくるという。


ライナーとアウレリアは、また果樹園周辺で調査を続けるようだ。


そのあたりの話は、ヒルダが教えてくれた。

知らない間に、アウレリアとよく話す仲になっているらしい。

さすがヒルダである。


「それで、果樹園の水路以外のとこにも壊れてるところがあったんだって。だから、様子を見てカイに修理を依頼するって言ってたわ」

「水路以外にも?それって……」


カイが言葉を濁すと、ヒルダはこちらに一歩近寄って声をひそめた。

「あのあたりを、ブラックウォルフが通ったみたいだって」

「やっぱり」


村から遠ざかっているなら少しは安心だが、それも絶対ではない。

不穏なものを感じたカイは、思わず腕をさすった。




今日は柵や井戸の修理ではなく、遊具を作るためにやって来た。

木材はまだ積まれたままだが、遊ぶスペースはまだ充分にある。


昨日の帰り道に会ったデニスにも改めて確認したので、ここに遊具を作るのだ。

村の中で遊べれば、子どもたちも少しは気がまぎれるだろう。


カイは、商店で手に入れた金づちや釘が入った鞄を地面に置いた。


まずは整地である。

なんだかんだと平らな地面は少ないので、土魔法で均していく。

切り株は取り出して端に置き、穴を埋めた。

盛り上がった部分を削ったので、余った土が山になっている。


雑草も土に混ぜ込んでから、カイは全体を見渡した。

「これくらいあればいいかな。真ん中のあたりは広場にしておくから、こっちの方に……」


歩いて行ったのは、柵に近い方だ。

そこで、余った土を使い、もう一度土魔法を発動した。


「なんて言ったかな?山みたいな形の滑り台」

前世の記憶では、近所にはなかったが、地方を紹介するテレビで見た。

富士山型の滑り台である。


「土を硬くして形を固定。って、このままだと怪我をしそうだな。こっち側に階段をつけよう」

子どもたちが遊ぶことを想定して、階段の段を低めにしておく。

階段の部分だけ飛び出す形になるが、別にいいだろう。


「滑るところは入念に固めて滑らかに……。頂上はあんまりつるつるじゃなくていいか」

そうして、(多分)この世界初の山型滑り台が完成した。

一応滑らかになるように調整したつもりだが、このまま何度も滑るとお尻のところの布が破れるかもしれない。


前日のうちにそう考えていたカイは、これも商店で買っておいた、葉を編んで作った敷物を地面に置いた。

「これだと大きすぎるんだよな。うーん、子どもが使うからまあこれくらいかな」


次に使うのは木魔法だ。

ちょうどいい大きさに切って、端っこを編んでとめていく。

この程度なら、カイの『故障品再生』スキルを使うまでもない。


そうして、十枚ほどの小さなマットのようなものができあがった。


ふう、と一息ついていると、遠くから見ていたらしい子どもたちが寄ってきた。

先日声をかけてくれた子たちだ。


「ねえ修理屋さん、今日は何してるの?」

「滑り台を作ってるんだ」

「すべりだ?」

「なにが滑るの?」

「これ、大きすぎ。あたしでも滑れそう」


子どもたちが口々に言うので、カイはにっこりと笑顔を向けた。

「あれは、君たちが滑って遊ぶものだよ」


「えっ?」

「ほんとに滑るの?」

不思議そうに言うので、カイが見本を見せることになった。


「ほら、この階段から上るんだ。で、一番上まで来たら、このゴザをお尻の下に敷いて、手前側を持って……」

ずざざざーっ!と滑ると、子どもたちの目が輝いた。


「やる!これ使っていい?」

「あたしも!」

「順番だよ!!」

「じゃんけんで勝った人から!!」


子どもたちは、じゃんけんをうまく使ってくれているらしい。


楽しそうな子どもたちを見ながら、次は端にある大きな木にブランコでも作ろうと思って、ふと気がついた。


「なあ、前にいた男の子は?今日は一緒じゃないの?」

あの、カイの魔法を面白いと言ってくれた男の子が見当たらなかった。


「オスカーなら、今日はお兄ちゃんのお手伝いをするって言ってた」

あの子はオスカーというらしい。

「オスカーのお兄ちゃんが、森の薪拾いに行ってたんだ」

「すごいよね、冒険者の人と一緒に森に行ったって」

「お母さんがオスカーのお兄ちゃん、すごいってほめてたよ」


なるほど、少し年の離れた兄がいて、今日はそちらにいるらしい。


「そっか。それはすごいね」

「うん!あ、待って!次はあたしの番!」

「早くー!」


楽しそうな子どもたちを見てから、カイは大きな木の方へ向かった。


ブランコはあまり難しくない。

大きな木の枝がはりだしているからだ。


柵の修理用に置いてあった木を一本もらって、枝の先の方を支える柱にした。

土魔法を使って柱を埋め、高さをちょうどいいように調整したら、枝と柱に蔓を巻き付けて固定する。

ほとんど枝が乗る形なので、このくらいの固定で充分だろう。


そして縄を放り投げて何とか枝にかけて向こう側に垂らし、くくって固定してから先端に板を結び付ける。

簡単な作りだが、この方が逆に誰でもメンテナンスできるだろう。


作り終わったころに、子どもたちが向こうで大きな声をあげた。


「オスカーのお兄ちゃーん!!」

「見てみて!滑り台だよ!」

「オスカーは?まだお手伝いしてるの?」


すると、オスカーの兄という青年は目をぱちくりとさせた。

「え?オスカーは今日は友だちと遊ぶって言ってたと思うけど」

「でも、来てないよ」

「オスカー、おうちで遊んでるの?」


「いや、家は今、妹が病気だから外に行ったはずで」

「そうなの?」

不思議そうな子どもたちを前にして、オスカーの兄は顔を曇らせていった。


心配になったカイは、彼に声をかけた。

「大丈夫か?オスカーの行きそうな場所は?」

「親父のジュース工場か、あとはここくらい……。あ、まさか」


「心当たりが?」

カイが聞くと、オスカーの兄はうなずいて、それから眉を寄せた。

「昨日、俺が薪拾いのメンバーに選ばれて南の森に行ったんです。夜、そのときのことを父に話していました」


カイは、黙って続きをうながした。

「母は妹に付きっきりで、ただ俺が薪を拾ってきたことだけは褒めてくれたんです。でも、オスカーが何か話したいというのを聞いてやれなくて……」


顔を下げるオスカーの兄と、カイは多分同じ結論を得た。

子どもたちの楽しそうな声が、遠い。


「まさか、一人で森へ?」

あんなに小さい子が、とも思うが、否定しきれない。

「なくはないです。でも、危険だってことは充分知っているし、頭のいい子だから行かないと思うんですが」


「まずは、ご両親のところへ。僕はデニスさんの所に走ります。もしオスカーが村のどこかにいたらそれでいいですから」

カイがそう言うと、オスカーの兄はうなずいた。


「僕は修理屋のカイです。そう言ったら、多分ほとんどの人は知っていますから」

「知っています。俺はペーターです。オスカーって名前はほかにもいるから、ペーターの弟って言ったら伝わると思います」

「わかった!」


そしてカイは、役場に向かって走り出した。

ペーターの走り去る音も聞こえた。


嫌な予感が胸に広がり、それを振り払うようにカイは地面を強く蹴った。

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