31 卵、会話する。
引き続きマイペースな卵です。
いつの間にか運び込んだのか、ゴブリン達は糸を紡ぎ、組体操のような見事な連携で織物を始めていた。ほんとマイペースである。
「こ、これは?」
「ああ、なんかスピニングゴブリンっていうらしいですねこの子たち。」
よく知らんけど。隙あらば織物してるんですよ、この子たち。
「す、すごい。まるで一流の職人の工房を見ているようだ。」
リーダーさんを含め、4人が感嘆の息を漏らすがこの世界でも不思議な事らしい。
「す、スピニングゴブリン?もしかして伝説の?」
「知っているのか、ボルト。」
「ああ、聞いたことがる。織物をおる魔物がいるって。その織物は端切れ一つでも、国宝級だって。それを求めて乱獲された結果、ずっと昔に滅んだって。」
ボルトという男の冒険者の言葉とヱンペル先輩との言葉の齟齬に気づく。
ヱンペル先輩は滅んだなんて言ってなかったような?
「なるほど、精霊様は、この地で彼らを保護されているんですね。」
「いや、全然。」
彼らは勝手に居つきました。
ゴブリン達の織物劇場を楽しんでいるうちに、4人の緊張も解け、俺は4人の素性を聞き出すことができた。
まずはリーダーさん。名前はリーフ・ダーク(まじでリーダーだった。)魔法少女見習いで、数年前から修行のために冒険者として出向していたらしい。アンナさんは見習いではないけど、細々とした魔法を使って冒険者稼業をしているとか。男たちはボルトさんとクルツさんは双子らしく、リーダーとアンナの身辺警護やポーターとして同行していたらしい。この世界で実用的な魔法を使えるのは女性のみなので、男の冒険者は珍しいらしい、彼らのように矢面に立つことはなく、立場的にも2人に引いている感じがあった。
「リーダー、これどうしたらいいんでしょう?」
「ありのままに報告、と言いたいところですけど。この場所を知ったらいらない欲をだす人がでそうなんですよね。精霊様、いかがですか?」
「はい?」
色々と話をしている間、急に話を振られて俺はおどろく?
「いえ、このまま静かな生活を望まれるようでした、そのように報告しますし。なんなら、ご協力を・・・。」
うーん、これは、口封じの可能性も疑われている?
「ですから、なにとぞ。私たちを・・・。」
「ああ、だから。そういう心配はいいですよ。」
「は、はい、失礼しました。」
うん、他の精霊さん、一体何をしてたんだ? 改めてこの世界の精霊さんの立場が分からなくなる。
「別に命を取るとか、そんなことはしませんよ。なんなら魔法少女さんの知り合いもいますから、あれです、リランカさんとも知り合いですからね、基本は人間の味方です。」
「リランカ?もしかしてシュリ・スカーレット・リランカ様のことですか?」
おお、さすがはエリート、名前をだしただけで4人の態度がさらにガチガチになってしまった。
ともあれ、この状況、どうしたものか。
スピニングゴブリンの生み出す織物や集落の価値の高さはもう疑いようがない。
開拓地のその先にこんなお宝があると分かれば、良からなぬことを企む人間は必ずでてくるだろう。俺が居なければリーフさんたちだって略奪者になっていたかもしれない。
(なんだかんだ返り討ちにされてそうだったけど。)
臆病で危機感のないゴブリンだが、村は凶悪。とくにこの一年でゴブリン君が作った罠や防壁替わりの布は、一般人にはつらいだろう。
しかし、善良なのは確かだ。彼らは暇さえあれば、自分たちの技術を磨きたいだけの職人でしかない。
(きひひひひ、お困りのようだね、卵ちゃん)
そんな風にどうしたものかと思っていたら、不意に懐かしい笑い声が脳内に響く。
「先輩?」
「きひひひ、おいおい、そこで声をだしたら俺の存在がばれるじゃないか。」
その声と威圧感、何よりほどほどに温かい風が吹き荒れる。そしてその姿を見たものは、例外なくその場にひれ伏した。
「きひひひひ、別にかしこまる必要はないんだけどな。」
「いや、それは無理がありますよ、先輩。」
現れたのは、頼れる先輩こと、ヱンペル先輩だった。
お久しぶりの更新となりましたが、区切りというか、ネタを精査したので、あと数話でおしまいです。




