#28 俺の友達は俺の事を知らないらしい
まだ全文は上がってませんが
放置しすぎるのもよろしく無いので投稿
「着いたわ」
目を覚ましたのが、廃ビルの二階。そこから階段を降りて、現在は地下一階。途中で何度か人とすれ違ったが、そのどれもが暗い顔をしているか俺を睨むかのどちらかだった。
「ここは?」
「反乱軍の作戦室よ。言っておくけど、アタシは蟻塚との義理を果たしただけだから」
「義理…」
蟻塚との義理って…なんのことだろう。というか、この世界での蟻塚の立ち位置がわからない。この世界での蟻塚が、楽園の手にあるなら。俺をこの世界に飛ばした蟻塚は、この世界とも俺の世界とも違う、全然別の世界の蟻塚だという事になる。
「じゃあ、あとはよろしく」
「ん?よろしく??」
「…アンタに言ったんじゃないわよ」
そう言う彩里の目線の先には。いつ触れようかと悩んでいた大吾の姿があった。逆立ちのまま、指立て伏せを繰り返す大吾の姿が。
「…994……995…」
「あー…その……大吾…さん?」
「996…997……」
「…大賀大吾、だよな?間違ってない……よな?」
「998…999……千ッ!」
目標回数が終わったのか、大吾はトレーニングを一度止めて。温まった筋肉の冷却に入る。
「あのー…」
「間違ってねぇよ。大賀大吾、それが俺だ」
「だよな!焦ったぜ……」
「そういうお前は、井堂亮太…だな?間違ってねぇな?」
「ん?あぁ、間違って無いぞ。ようやく話が出来そうな奴に会えて良かったよ。蟻塚に詳しくはこっちで聞けって言われて飛ばされたのに、彩里は何も教えてくれないし…っ!?」
突然殴りかかられ、咄嗟に衝撃の速度だけを奪う。だがその事に驚くそぶりも無く、次の一手には背負い投げを繰り出してきた。床に叩きつけられると同時に、手加減無しの蹴り上げが一発。そのどれもが俺に届かないと感じた大吾は、服の襟首を持つと、そのまま壁に向かって放り投げ、受け身を取らせる前に俺の首を掴んで壁に押し当てた。
「お前がッ!お前ひとりのためだけにッ!あいつは…蟻塚は犠牲になるっていうのかよッ!こんな、こんな……ッ!甘い野郎のためだけにッ!!」
「大吾…」
「お前、亮太って言ったな?今だってそうだッ!俺はお前を殺すつもりで殴ったッ!なのに、なんだよ!この期に及んで手加減?バカにしてんのかッ!その気になりゃあ一発目に俺が触れた時点で俺の負けだろうが!だが、お前はそうしなかった!誰も傷付けたく無い?知り合いだから助けたい?寝ぼけた事言ってんじゃねぇぞテメェ!」
そう、叱責する大吾は……泣いていた。口や態度には出さなかったけれど、その目の奥はずっと泣いていた。
「何事デス!?スゴイ音デス!」
「っ……なんでもねぇよ!」
そう言い残し、大吾は部屋を出て行った。入れ違いで入ってきたのは…この世界のリサだった。
「…えっと……」
「ハジメテマシタ、パラレルワールドからようこそデス!リサは、リサって言うデス!ジゲンから聞いてるデス、リョータデス?」
「何を始めたんだ。そしていつ終わったんだ。はじめまして、だろ……あっ」
まただ。また、やってしまった。この世界はどこまでも、俺の世界と違うのに、同じように接してしまう。
「フーム…リョータとリサは、シンユーだったデス?トモダチ、いっぱいデス?」
「あー…そうだな。仲は良かったよ。友達も…多くないけど、たくさんいる。んで、それは同じ仕事仲間…でもあるな」
「良かったデス!リサはみんな大好きデス!他の世界でも、リサがトモダチに囲まれてて良かったデス!!」
そう言って、リサは部屋の外を確認しに行き。何に安心したのか、そっと胸を撫で下ろした。
「…ごめんなさいデス」
「……リサ?」
「イロリと…ダイゴの二人デス。二人はジゲンと……特に仲良しだったデス」
「…詳しく、聞かせてくれないか?」
「もちろんデス!」
それからリサは、楽しそうに教えてくれた。
いつも四人で遊んだ事や、笑いあった数々の出来事。楽園からの刺客も時折あって、それを無事に追い返した事。辛いことや悲しい事も、全部一緒に乗り越えた事。彩里と、大吾と、リサと蟻塚は……世界が楽園の支配下になるずっと以前から、友として過ごしていたそうだ。
「…でも……ある日、楽園から送られてきたヤツに…ジゲンは連れていかれたデス」
楽園の連中は、月に何度か『狩り』としてリサ達や、他の地域の人々を襲っているらしい。その理由は分からないけれど。
「イロリも、ダイゴも…リサも、その時はジゲンを取り戻そうとしていたデス。そしたら、突然ジゲンが現れたデス」
三人は両手を上げて喜んだ。けれど蟻塚は、少し悲しい顔をして三人にこう告げる。
『この世界のオレァ死んだァ。オレァ別世界の蟻塚だァ。楽園の連中ァ、放っとくと別の世界も食い尽くすゥ…だァらわざと別世界に行く方法ォ与えてェ、フラグ建てたァ。あとァブッ潰すだけだァ』
「…リサ、バカなんデス。ジゲンの言ってる事、全然分からないデス。でもこれだけは分かるデス……ジゲンは、リサ達を守るために死んだデス」
『イッぺん潰しァ、その事実ァ因果律に絡まりィ…二度と奴等ァのさばらねェ。ついでにオレァその因果を全世界とカラメちまえァ……楽園ってェ存在は消え去るァ。そしたらよォ…もォ誰も不幸になんざァならねェなァ?』
話を聞くうち、ふつふつと悔しさが込み上げてくる。楽園が消えれば、確かに救われる人はたくさんいるだろう。けれど、誰かの犠牲の上に成り立つ幸福は、常に誰かの不幸を呼ぶ。
そんな事を強いるこの世界が。どこかにいたはずの俺が、一番最初に失敗しなければ。そんな、今更どうしようもない事ばかり考えてしまって。
「……ひとつ聞く。楽園の連中は…アレを手に入れたのか?」
「ジゲンは、ジゲン同士で記憶を共有できるってジゲンが言ってたデス。そのジゲンが言ってたデス……『時間を命に変える能力』があるって…デス」
つまりこれで、ハッキリした。俺がこの世界でやるべき事。
「リサ、みんなを集めてくれ。俺から話がある」
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作戦室に、続々と人が集まってくる。
この『反乱軍』を率いているのは彩里や大吾をはじめとした、比較的に年若い連中で。蟻塚は彼らの筆頭的存在だったらしい。だからこそ、蟻塚の代わりに現れた俺を、誰一人として歓迎はしなかった。
「…リサから、大体の話は聞いた。蟻塚の事、この世界の事……言葉でしか言えないけれど、すまなかったと思う」
誰も俺の話なんて聞いていない。ただ、蟻塚の選んだ救世主がどんな奴なのか。それだけを気にしているようだ。
「でもこれだけは言わせてもらう。蟻塚は大バカ野郎だってな。だってそうだろ?自分一人が犠牲になれば世界を救えるなんて、本気で信じてるんだから」
「テメェ…今すぐ死にてぇならそう言えや……!」
「大吾。冷静になってよく考えろ。もしこのまま蟻塚を消したら、他の世界でも蟻塚が消えるんだぞ?因果律に結びつけて楽園を消し去るっていうのは、そういう意味だ」
「……ッ」
大吾も、その事には気付いていたのだろう。けれどその事実に気付かないフリをして…目を背けた。ひとりの犠牲で救われる、この先何億という命と天秤にかけて。
「もう一度言う。蟻塚は大バカ野郎だ。自分一人すら救えず、多数を救うと息巻いている。そんな奴に、世界を救えるかよ」
「だったら何よ。綺麗事ばっか並べて、今更アンタに蟻塚を救えるの?死んだのよ、アイツは!まさか生き返らせるの?それこそ、楽園の奴らと何も変わらないじゃない!」
「それだ」
「…何よ」
「大吾も、彩里も、ほかのみんなも。蟻塚が死んだって言ってるが…俺はそうは聞いてない。蟻塚は俺にこう言った…『次元移動装置は脳だけになった蟻塚だ』ってな」
「だから何…?それって生きてるって言える?」
「いや、そうじゃなくて。確かに『脳だけ』になってるのを生きてるとは、俺も言わない。けど、自分が脳だけの状態にされたって、どうやって認識するんだ?」
「…待てよ。つまり何か?お前は蟻塚がまだ生きてるって言いてぇのか?」
「可能性の話だけどな。つまり何が言いたいかって……蟻塚を助けたい。楽園の施設も、完膚なきまでにぶち壊す」
自分の状態を自分で確認する方法なんて、その時々で変わるものだ。この場の誰か一人でも、装置に組み込まれた蟻塚を見たか?仮に別世界の蟻塚が、次元移動を使って装置を外から見れたとして。どうしてその時に、装置を持ち出さない?持ち運べる大きさで無かったとしても、その核たる蟻塚を抜き取ってしまえば、それだけで『壊した』という因果に持ち込めるはずだろう。
「もし本当に脳だけの状態にされていたのなら、俺が装置を破壊する。これは蟻塚とあまり面識のない俺の役目だ。知人を手にかける辛さは、よく知ってるからな」
「いいわ、それで構わないわよ。本当はアンタに任せたくないけれど、アタシ達じゃあ絶対にためらうでしょうから」
「…彩里がそれでいいってなら、俺からは何も言わねぇ。だがよぉ、装置をブッ壊しただけで楽園の連中は大人しくなるのか?」
「……ならないだろうな、装置だけだと」
楽園が消えるにはもう一つ。連中の存在意義を失わせなければならない。それが…『不老不死』『死者蘇生』の能力。
「楽園の連中は永遠の命に固執している。権力者に永遠の命を与え、自分たちの傀儡に仕立て上げ、この世界を支配するつもりなんだ」
「…そんな事をして、何がしたいデス?」
「表向きは世界の平和などと言っているが、支配の先にあるのは破滅だけだ。そして長い年月をかけて文明が衰退した頃、楽園は新たな文明を築きあげ、新世界の神になるのが目的なんだ」
永遠の命があるからこそ出来る、壮大な世界浄化計画。同じ世界平和なら、ノウナの追い求める平和の方がよほど好ましい。
「永遠の命…本当にそんなものがあるの?」
「ある。俺の知る限り、実例は二件。太古の時代を含むなら…エリクサー、賢者の石、ホムンクルス、蟠桃、不死の灰……ほとんど伝説や空想だが、それを『現実に』出来る能力者もいる」
実際、ノウナなら簡単に不老不死となるだろう。むしろ、もうなっているかもしれない。だが楽園側にノウナの求めるものは存在しない…とすれば。実例のどちらかが成されたか、あるいは別の何かか。
「ぬぁー!!!!考えても分からんっ!もういいっ!よーするにアレだろ?機械ブッ壊して不老不死の方法をブッ潰しァいいんだろっ!?とどのつまりカチコミじゃねぇか!」
「デスデス!カチコミデス!!ゴヨーだゴヨーだ!!デス!!!!」
「そうね。考えても仕方ないわ、とりあえず行けばいいのよ。蟻塚を助けに行く、生きているかもしれない。それだけで、戦う理由は十分だわ」
「待て待て!そんな簡単に決めていいのか?第一、連中の居場所もわからないのに…」
「…何言ってやがンだ?もしかして、見てなかったのか?」
「なら、あとで屋上に行くといいわ。いやでも見れるから」
屋上に登れば見えるって……あぁ、そうか。隠れる必要は無いのか。むしろ、権威の象徴として目立つ必要すらある。
「あんまり時間もねぇんだろ?いつカチこむ?」
「…あまり大勢で動くと、身動きが取れない。戦闘慣れしているメンバーと、その能力を明日教えてくれ。それまでに、楽園の本拠地の確認と作戦を考えておく」
「了解デス!」
楽園の壊滅。蟻塚の救出。やる事はいたってシンプルだが、そこに至るまでに何度、俺は困難にぶつかるのだろうか。
終わった過去が、終わらなかった世界で、再び俺に終わらせろと言い放つ。だから今度こそ。誰の犠牲も無く終わらせる。そうして初めて、俺の過去は本当の意味で終わるのだから。
ご愛読ありがとうございます。
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