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魔女の煌めき屋【更新停止。続きは冬童話2026版で最終話まで投稿しますブックマーク移動よろしくお願いします】  作者: 黒井ここあ


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大地の祈り(2)

 魔女の〈煌めき屋〉には昼も夜もなかったが一日は確かに存在していた。

 だから魔女もあくびをしたし、エイノとソフィにはベッドが用意された。

 ランプが消されれば夜で、つけば朝なのだ。

 そしてエイノとソフィがよく知るようにオートミールが朝の挨拶で、ハーブティがお休みの挨拶だった。

 どちらもたっぷりとミルクが入っているところまで同じだった。もちろん、少し胸やけするところまでも。

 さらに、母親が要求するようにテーブルの後始末まで言いつけられた。

 子どもたちも魔女に遠慮はしなかったが、リュスラーナも大概だと少年はぼさぼさの頭で思った。

 この日も明け暮れのないおぼろげな空色が窓辺で彼らを迎えた。

 座らされたテーブルの上には昨日ソフィが集めてくれた海の遺物と透明な空き瓶、そして白い泥が入ったボウルが乗せられていた。

 それらが何かの説明を聞く前からソフィが泥に指を突っ込んで感触を確かめている。もちろんエイノはすばやく咎めた。


「やめろよ」


「エイノ君、ルーよりもお母さんみたい」


「物事には順序がある。無知の事には教えを受けたほうがいい。それにしてもリュスラーナもルドゥーシュカも『ルー』と呼ぶのはなぜなんだ?」


 小さくむくれたソフィがぼそぼそと問う。


「……それって、子どもっぽい?」


「僕はそう思う」


「じゃあ、止める」


「それは質問の答えじゃない」


 エイノがとげとげしくすると彼女の顔が引きしめられた。


「ちっちゃいときにはどっちも発音が難しかったから。リュスラーナもルドゥーシュカも。だからルー。そのままだったんだよ。でも、そうだよね。十二歳は大人の入口だしきちんとしないと、だよね。ビリエルさんに釣り合う女性にならなきゃ……」


 うん、と自分に言い聞かせているソフィの横顔はまだぼんやりとまろやかだった。


「ふうん。背伸びしなくていい。君はまだまだ子どもだよ」


「エイノ君だってそうでしょ。同い年なんだから!」


「はいはい、おチビさんたち。やっと頭が冴えてきたみたいね」


 口論に発展しそうなところへリュスラーナがやってきた。

 その手には、赤く燃える結晶があった。

 細長い結晶にかがり火が詰まっているそれはとても熱そうに見えたが、彼女は素手で軽々と持ち運んでいる。


「それ、綺麗だね、ルー……じゃなくて、リュスラーナ。何なの? 何に使うの?」


 ソフィが名前を略さなかったのに魔女は眉をぴくりと動かした。だが小さな頬笑みとともに息をついた。


「これはね、ルドゥーシュカが入っていたのよ」


「えっ! 小さいルーが?」


 すぐに調子を戻した友人にエイノはたまらず吹き出した。

 ソフィ、それじゃあ、あんまりにも早すぎだ。

 魔女も同じことを思ったらしく破顔している。

 それはどことなく嬉しそうに見えた。


「ええ。それに乗って、流れ落ちてきたのよ。あの子は覚えていないだろうけど」


「流れ星ということか? しかし、星が落ちてくるなんて、占星術師が見たら大声で言うはずだけど――」


 エイノが思索に潜り込む前に魔女が手のひらを振った。


「落ちてゆくところは見えていても落ちた星そのものが見当たらないのは当り前よ。だってランダメリに落ちているんだもの。あの子はそうやって燃えながらやってきたのよ」


 魔女が語るに、空からの贈り物として現れる精霊は稀で、そのゆりかごだった星の結晶も稀少な魔法道具だという。


「あの子、生まれた時には、本当に〈きらきら〉していたものだけど……」


 そう呟きながらリュスラーナは星の結晶をそっとオーブンの中に入れた。

 すると黒々と冷めていたオーブンが暖かな色を宿し始めた。魔法の熱がまだ残っているらしい。

 今日のランプづくりの説明はいたって簡単だった。

 好きな形の空き瓶を選んでその上に拾い集めた小さなガラスを泥で貼りつけていくのだ。

 ソフィはとてもよく転がる真球を選び、エイノは無難に瓢箪(ひょうたん)型のジャム瓶を選んだ。

 少年は眼鏡の端から友人の無謀さを称えた。

 そんなに面積があったら骨が折れるだろうに。

 しかし少女はそれを苦とも思っていないようで黙々とシーグラスや結晶化した植物を貼りつけては、面白そうに蝋燭にかざしている。


「きらきらしていて綺麗! でも光は色を飛ばしちゃうんだね」


「でもなかったことにはしないわ。あなたの瞳が光がとかした色を受け取っているかどうか、その違いよ」


 へえ、とソフィが素直に受け取るがエイノは違った。


「きらきら輝くものと言えば光だ。だのにあなたは、〈きらきら〉は光ではないと否定する」


「そうね」


 肯定に首を傾けたので彼女の短い内巻きの髪が揺れた。

 彼女の髪は水色や、黄金、朱にも輝く、まるで朝焼けの色をしていた。


「私が見ているのは物が持つ光をあなたがきちんと受け取っているかどうかよ」


「自ら輝かないものだってある」


「それはあなたが興味を持って見つめていないからだわ。日陰や雲泥にさえ光を見いだす人もいる。あなたも実はそうなんじゃなくって?」


 たっぷりとした笑顔が二〇代前半の相貌に浮かぶ。

 けれども彼女のその表情と声音、丸めこみようはなぜだかエイノに祖母を思い起こさせた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


次回更新は、明日12月7日21時頃です。


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